No.052 本当の「真空(0)」からエネルギーが取り出せる?:“真空ゆらぎ”

過去の記事は「本来存在しないはずの反物質の発見(*1, *2)」、そして「それらはどのように発生したのか(*3, *4)」、そして「見えないもの(エネルギー)と見えるもの(物質)は等価交換可能である(*5)」ということを解説してきました。

前回の記事(*5)においても、1.022 Mev (メガ電子ボルト)以上の光子(高エネルギー電磁波)から電子 (electron) と陽電子 (positron) のペアが創り出され、逆に電子と陽電子のペアが接触すると消滅して 0.511 Mevの光子が2個発生することが示されました。

電子 (electron) も陽子 (proton) も中性子 (neutron) も原子 (atom) も全ての物質はエネルギーに変換でき、そして反対に「質量に相当するエネルギー」からは「物質を生成する」ことができます。つまり「無いもの(非物質:エネルギー)」と「有るもの(物質:質量)」は「全く等しい」「相互に変換可能である」ということが科学的に証明されてきました。

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以前の記事のタイトルでは「無から有が生み出される」と記していますが「やっぱり相当のエネルギーを与えないと物質は生み出されないのか」「結局何かを与えないと取り出せない」と思った人もいたかもしれません。

しかし「本当に何も無い真空(0)には何も無い」と思いますか?それとも「本当に何も無い真空(0)から何かが生成される」としたら奇跡的なことだと思いませんか?今回はそんな事が可能なのかどうか、という点について解説していきます。


はじめにFigure 2を見てください。容器(Container 1)の中には空気が入っていてその中にはもう一つの容器(Container 2)があり、この中にも空気が入っています。図中の青い丸は気体分子と考えてください。どちらの容器も内部は1気圧(1 atm)に保たれているので容器2の内部と外部で力が釣り合っているため動くことはありません。

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次にFigure 3Aを見てみます。容器2から空気を抜き、気圧を 0.1 atmに下げました。そうすると外気圧は1 atmなので図のように内圧よりも外圧の方が大きくなります
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するとFigure 3Bのように容器2の壁は外圧から押されて平たく潰れてしまいます。このことは小中学生の理科の授業でも習うことで誰でもよく知っている現象だと思われます。


ここでFigure 4Aを見てみます。今度は容器(Container 1)の中は真空で原子などあらゆる物質は一切存在していません。そして、電磁場(Electro-magnetic field)や電磁気力(Electro-magnetic force)といったものも存在していません外部から高エネルギーの電磁波(Electro-magnetic wave)が照射されるということも今回はありません

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この容器の中には図のような2枚の並行な平板(Parallel plates)が設置されています。これらの平板にも電圧がかけられたり磁気を帯びていることもありません。重力に対しては垂直なので水平方向に地球の重力の影響を受けることはありません。2枚の平行板の間は“d”だけ距離が開けられています

このような状態の中でFigure 4Bのように平行板の間隔“d”を縮めていくとどのようなことが起こるでしょうか?以前記事にした「宇宙における4つの力(*6)」に従って予想すると、まず“電磁気力(Electro-magnetic force)”に関しては2つの平板に電場も磁場も作用していないので電磁気力は作用しないはずです。次に“重力(Gravity)”ですが、地球の重力は平行板の間に働く力に影響はないはずです。2つの平行板の質量によって非常に小さな重力が働きますがそれも計算に含めます。そして“強い相互作用(Strong interaction)”や“弱い相互作用(Weak interaction)”はいずれも作用距離が原子の大きさ(約10^-10m)よりも遥かに小さいので影響はありません。

このようにFigure 4Bのように「真空の中で2枚の平行板を近づける」というだけのことです。これで「何かが起こる」とは普通の人には考えつきません


しかし、1948年にオランダで量子力学を研究していた物理学者のヘンドリック=カシミール(Hendrik Casimir, Figure 5, *7)博士がある発表をします。彼は「何も無い真空の中で2枚のプレートを近づけると力が発生する」ということを予測しました。

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Figure 5右側に計算された数式の一部を示しています。ここでは全て表記しきれないほどの長さなので大部分は省略されていますし、現時点では過程を全て理解する必要はありません。

ここでは右下の枠で囲まれた「F=...」の部分だけ注目してください。ここでは「h (エイチバー)」はディラック定数、「c」は光速(定数)、なので変数は「a (2枚のプレート間の距離:μm)」のみです。これらの定数は変化しないのでFigure 5の方程式を要約すると「Fは aの4乗に反比例する」つまり「距離がミクロン単位で小さくなるほど2枚のプレート間の何らかの力が大きくなる」ということを表しています


この力は当時でも電磁気力や重力のいずれにも該当しないものと考えられていたため「カシミール力(Casimir force)/カシミール効果 (Casimir effect)」と呼ばれるようになりました。しかし、これは机上の計算結果です。「実際に観測できるのか」という点に関してはこの研究論文の発表当時では「精密な平板/厳密な真空/正確な計測」という条件を満たすことが困難であり実証には至ってませんでした
しかしながら当時から50年ほど経過してこの理論に近い条件を再現した実験がいくつか報告されました。そのうちの一つがBressi氏らによる「Measurement of the Casimir force between parallel metallic surfaces (平行な金属表面間のカシミール力の測定, *10)」という2002年の研究論文です。


なぜ1948年のカシミール理論が2000年頃まで実証されなかったかというと、この理論はミクロン単位の精度が要求されます。2枚の精密な鏡面(凹凸があったりミクロの傷があってもいけません)を平行に保つ(ミクロンレベルでの平行さが要求されます)、しかもこれらに対して“何らかの力”が発生しても平行に保たれる機構が必要になります。

このような条件をクリアするために彼らが準備した装置がFigure 6のようなものでした(しばらくは実験方法なので結果だけ知りたい人は結果まで飛ばしても大丈夫です)。

Figure 6左にこの装置の概要が示されていますが、点線で囲まれた部分が真空 (vacuum) の容器を表し、その中の2枚の平行板の1つが“カンチレバー Cantilever”という構造で、もう1枚の平行板の方が“ソース Source”と呼ばれています。これが“真空中の2枚の平行板”という基本的な構造です。大きさは“Cantilever”の方が1.9cm×1.2mm×47µmというサイズなので微細な領域を扱う実験だと思ってください。

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しかしながら、真空容器の中でこの微細な装置を精密に平行状態にするのは人の手では不可能です。そのため“Source”の方が高精度の位置制御モーターに接続され、Figure 6右の画像のように電子顕微鏡的に平行な位置を設定します。さらに静電容量計 (Capacitance meter)によって“1.2mmにわたって30nm以内の平行度(1.2mで0.03mm以内の平行度に等しい)”を保つように電気的に制御されています。

しかし、電気的に位置制御される場合に問題となるのは「2枚の平行板に電位差が生じて静電気力が発生してしまう」ことです。そのため2枚の平行板“Source”と“Cantilever”は電圧校正計 (Precision voltage callibrator)に接続され推定される何通りかのカウンター電圧(Vc)をかけることで電位差を打ち消す対策がなされています。

ここまでのステップは「実証実験に必要な2枚の平行板をどのようにセットアップするか」というところまでです。次にこの「2枚の平行板に生じた僅かな力をどのように計測するか」という点を解決する必要があります。


これに用いられたのはFigure 6左側の容器の外部にある“光ファイバー干渉計 (Optic fiber interferometer)”です。これは“Cantilever”の位置の変化を非常に鋭敏に検出し、10^-7 m/Vの精度(ナノレベル)で動きを検知することが可能です。そしてこの“Cantilever”の共振周波数(Hz)を測定することでこれら2枚の平行板に生じる力の大きさを数値化することができます(力が強いほど周波数が高くシフト)。

結果がFigure 7のようになります。
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Figure 7左は静電気力を打ち消すために何通りかの固定したカウンター電圧 (Vc)によって得られたデータ、そしてFigure 7右はこれらの3つから余分な静電気力を排除し、距離補正して得られたデータです。

横軸(dr/d)が2枚の平行板の距離(µm)縦軸が共振周波数(=平行板に加わる力)です。いずれのグラフを見ても左側に来るほど(平行板の間隔が近くなるほど)下向きになっており、「近づくほど平行板が引きつけ合う方向に力が働いている」ということを示しています。特にFigure 7右のグラフをみると、平行板の距離が1µm(1マイクロメートル=1/1000ミリ)よりも小さくなったときにこの力が顕著に表れています。

「何も無いはずの真空で2枚の平行板が近づこうとする何らかの力」が存在していることが科学的に証明されました。では「この力は何なのか」という点を説明していきます。


過去の記事でも量子(光子でも電子でも陽子でも)は「波 (wave)」でもあり「粒子 (particle)」でもあるということを科学的に示してきました (*11)。
ということは、
「波動が存在できるところには何かが出たり消えたりしているのではないか」
「真空とは、巨視的(マクロ)に見て何も無い(0)状態であるが、微視的(ミクロ)で見ると何かが出ては消えているのではないだろうか」
「波動が存在できないように空間を制限したらその空間のエネルギーも制限されるのではないだろうか」
というように思考を展開したのが上に挙げた科学者達です。その上でFigure 8を見てみます。

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Figure 8はCasimir博士の理論や今回の実験のように「2枚の平行板で空間を制限した」状態を図にしたものです。こうしてみると実は真空というのは“さまざまな波長の波が存在している”と考えられます。そして実は“真空は常に平坦なゼロ(0)ではなくエネルギーが絶え間なく出ては消えている”と考えられます。

そして2枚の平行板によって空間を制限した結果、一部の波長のエネルギーがそこに出現できなくなり、外側とのエネルギーに差が生じました。その結果、2枚の平行板の間のエネルギーは相対的に弱くなり外側から押される力が発生した、ということがFigure 7のグラフで示されています。


このように「真空は実は常に平坦な無(0)ではなくエネルギー的な変動を繰り返している」という現象を“真空ゆらぎ Vacuum fluctuation/量子ゆらぎ Quantum fluctuation (*12)”と呼びます。Figure 3に戻ってみると、空気の中で容器の中の空気を抜いたら気圧の力で容器が押し潰されるのは誰がみてもわかりますね。実は空気と同じように真空の空間はエネルギーで満たされていて条件が揃うとそのエネルギーを取り出すことができそうです。

このカシミール効果は提唱されたのは非常に古いですがこれを実現する技術が追いついてきて現在も盛んに研究が行われています。この力は距離が0.01µmになると1気圧の力を生じることが分かっていて、マイクロマシンやナノテクノロジーに革新を起こすかもしれません(*13)。
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前回までの話では、「物質」と「エネルギー」は等価交換「見えるもの」と「見えないもの」はそれぞれ等しいものに変換される、ということを解説しました。しかし、今回はさらに驚くべきことに「本当の真空(0)からエネルギーが出てくる」ということを示しました。しかもこれらは「常に無限に出ては消えている」“ゆらぎ fluctuation”という現象です。つまり、空気が誰にとっても無償で無限に与えられているように、この「空間自体も無償で無限のエネルギー源になり得る」ということが言えます。


一方で形而上学的にはこのような言葉が知られています。

FROM THE EXHAUSTLESS RICHES OF ITS LIMITLESS SUBSTANCE I DRAW ALL THINGS NEEDFUL, BOTH SPIRITUAL AND MATERIAL(その無限の質量の無尽蔵の豊かさから、私は霊的にも物質的にも必要なもの全てを引き出す)” (*14)

初めて読むとよく分からないかもしれませんが、実は「我々の周囲は常に無尽蔵の資源に満たされており、見えないもの(光、エネルギー)でも見えるもの(物質)でも思い通りに(意志によって)取り出せる」ということを何千年も前から我々に説いていたのかもしれません。

今回も科学がまた一つ我々の常識を覆す真実を立証したことに驚き、そのように奥深く創造された自然の摂理に脱帽させられる回でした。宇宙の真理を知ることで宇宙と自己が少しずつ統合されていきます。“真空ゆらぎ”、“カシミール効果”は非常に奥が深いのでまた改めて詳しく解説していきます。


引用:
*1. Anderson CD. Cosmic-Ray Positive and Negative Electrons. Phys. Rev. 44, 406-416, 1933.
https://note.com/newlifemagazine/n/n56fb7ec42b46
*3. Standil S, and Moore RD. "Absolute Pair Production Cross Section of Lead at 2.76 Mev." Canadian Journal of Physics 34.11 (1956): 1126-1133.
https://note.com/newlifemagazine/n/n8833f57562bf
https://note.com/newlifemagazine/n/n96b7b89af9fd
https://note.com/newlifemagazine/n/n90c2cc2fab80?
*7. Hendrik Casimir- Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Hendrik_Casimir
*8. Casimir HBG. "On the attraction between two perfectly conducting plates." Proc. Kon. Ned. Akad. Wet.. Vol. 51. 1948.
*9. Casimir HBG, Polder D. The influence of retardation on the London-van der Waals forces. Physical Review 73.4 (1948): 360.
*10. Bressi G, Carugno G, Onofrio R, Ruoso G. (2002). Measurement of the Casimir force between parallel metallic surfaces. Physical review letters, 88(4), 041804.
https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a
*12. Quantum fluctuation- Wikipedia.
https://en.wikipedia.org/wiki/Quantum_fluctuation
*13. Lambrecht, Astrid. "The Casimir effect: a force from nothing." Physics world 15.9 (2002): 29.
*14. The Pattern on the Trestleboard. B.O.T.A. https://www.bota.org/resources/the-pattern-on-the-trestleboard

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