No.049 有るはずのない物質:“反物質”

今回は前回までのアロマセラピーの話とは変わって、原子や素粒子の話です。科学的な自然界の法則を理解しつつ、非科学的な(形而上学的な)摂理と照合してこの世界をより深く理解していきましょう


皆さんもよくご存知の通り、物質は原子(Atom)から成っています。その原子はFigure 1に示すように原子核(Nucleus)とその周囲の電子(Electron)から成っています。そして原子核はプラスの電荷(Charge)を持つ陽子(Proton)と電荷を持たない(0 charge)中性子(Neutron)で構成されています。
これらの違いは電荷だけではなく「重さ」も違います。電子の重さを1とすると、陽子や中性子は約1840と、「電子は非常に軽い」または「陽子や中性子は電子に対して非常に重い」という特徴の違いがあります。

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そしてこの原子は様々な種類があり、これらが結合して分子(Molecule)を形成しています。Figure 2に示すように、分かりやすいH2O=水やブドウ糖、アミノ酸も原子でできた分子です。同様にタンパク質も脂肪も骨も全て原子から出来ています。つまり、我々の肉体も含めて地球上にあるあらゆる物質は原子、つまり「電子」と「陽子」と「中性子」からできている、と言うことができます。

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逆に「それ以外のものがあるのだろうか?」という疑問が生じるかもしれません。今回はそのような“予想外の物質”の発見に関する話を紹介します。



時は1930年頃に遡り、カリフォルニア工科大学にカール=アンダーソン(Carl D Anderson)という研究者がいて、彼は宇宙線(Cosmic-ray)の研究をしていました(*1)。宇宙線の研究というのは宇宙、つまり大気圏より上空から地球に降り注ぐ電磁波などを観測してそこに含まれる粒子やそのエネルギーの性質、大きさなどを分析するという研究です。

しかし私たちが外を歩いていても宇宙線を見ることがないのは、宇宙線が無いわけではありません。これらは常に地球上に降り注いでいますが見えない理由としては「高エネルギーの電磁波である」または「原子や素粒子レベルの大きさである」からです。もちろん、これは科学が発達した21世紀からしたら当たり前ですが、当時はそのような基本情報は知られていないですし、「他にも未知の物質があるかもしれない」という探究心から研究が行われていました。


それでは「見えない宇宙線や未知の物質」をどのように観測するかと言うと、“霧箱(きりばこ: cloud chamber)”の手法を用います(*3)。霧箱とは、内部を水蒸気で飽和した観測容器のことで、「宇宙線や放射線など高エネルギーの電磁波や物質が通過すると水がイオン化して雲が発生し、軌跡が肉眼で見える」という原理です。

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Figure 3が見本の一例ですが、左側はアルファ線という威力の強い放射線軌跡が“太くはっきりと”出ています。これによって“本来は目に見えないアルファ線という高エネルギー物質の存在”を可視化することができます。Figure 3右側はベータ線(電子線)の軌跡で見えにくいですが細くこまかい線がたくさん出ています。このようにその電磁波のエネルギー、電荷の大きさ、電離密度、などによって線の太さや長さに違いが出てきます。これを観察することで未知のエネルギーや物質の性質を分析することができます。

そして実際にアンダーソン博士が用いたウィルソン・チャンバーという霧箱の構造がFigure 4左側の図に描かれたような構造をしています。この中で霧箱の部分は中央の「Chamber」と書かれた部分で、直径16.5cm、深さ4cmという小さなものです。では周りの大部分は何かというと「ソレノイド(Solenoid)」というコイルを何重にも巻きつけた電磁石の構造から成ります。

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先程、霧箱本体のチャンバー部分は直径16.5cm×深さ4cmと言いましたが装置全体はFigure 4右側(*2)のようにかがんだ男性(アンダーソン博士)と同じくらいの大きなものになります。なぜこのような大きな装置になったかというと“チャンバーに磁界を付与するため”です。

ここで中学生の理科を思い出しましょう。「フレミングの左手の法則」というものがありました。忘れていた人もFigure 5を見れば大丈夫です。左手を出して中指が電流(I)、人差し指が磁界(B)、親指が力(F)でしたね。Figure 5中央図のように磁界があると、“その粒子の軌跡が曲がるかどうか/どちらに曲がるか、によって電荷がプラスかマイナスか0か”ということが分かります。またFigure 5右図のように磁界があると、“その軌跡の曲率によってエネルギーの強さ、または粒子が重いか軽いか”が分かります。
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このようにして実際のチャンバーで撮影された画像がFigure 6のようになります(*1)。この写真で白っぽい軌跡のような線が見えますが、これが“高エネルギーの粒子が通過して発生したイオンを捉えた写真”ということになります。太くぼやけて見える線は発生したイオンが拡散しているためで、“早い時期に通過した粒子”を表し、細く見える線はイオンがまだ拡散していないので“太い線よりも後に発生した粒子の軌跡ということを表しています。ただし、1枚の画像は0.025秒(1/40秒)の間の画像なので一瞬の間の出来事です。例えば、この写真の右(Figure 6右)の丸い軌跡は回転の向きや曲率から、4.8メガボルト(million volt)のエネルギーを持つ電子ということが分かります。

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この実験で分かったことは、プラスの電荷の粒子とマイナスの電荷の粒子を検出することができましたが、“プラスの電荷を持つ粒子が陽子の特徴と異なっていること”が次第にはっきりしてきました。Figure 7に示すのが磁界中の粒子の曲率とエネルギー損失(左)またはエネルギー(右)の関係です。既知の粒子で磁界の影響を受ける(電荷を持つ)ものは電子か陽子だけです。これら電子と陽子は電荷の大きさ同じくらいですが重さが約2000倍も違うので、磁界の中での曲率やエネルギー損失が大きく異なってきます(Figure 7)。そして“プラスの電荷を持つ粒子”は既知の粒子では陽子だけのはずですが、“観測されたプラスの電荷を持つ粒子”はこの陽子の質量とどうしても計算が合いません

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ここでアンダーソン博士はさらなる実験として、「鉛板を通過させる実験」を行いました。鉛板は放射線を遮蔽(しゃへい)する際にも用いられるもので“放射線や高エネルギー粒子を通しにくい性質”を持っています。宇宙線で地上に到達するものはエネルギーが高い(エネルギーの低いものは大気圏でカットされる)ので、それらを弱めるためには木やプラスチックではダメで鉛板が用いられました。

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この実験で得られるのがFigure 8のような画像です。Figure 8左は中央の水平な鉛板を一つの粒子が貫通していて、Figure 8右は2枚の鉛板を一つの粒子が貫通しているのが分かります。これによって“鉛板を通過する前後でどのくらいのエネルギーを失ったか”、また“エネルギー損失から粒子の質量やエネルギーの大きさが推測できる(Figure 7左)”ということが分析できます。


のような実験の中で得られた写真の1枚がFigure 9です(*4)。これを説明すると、まず見てわかるように中央に水平な厚さ6mmの鉛板があります。その中央部を一つの粒子が貫通した軌跡が鮮明に捉えられています。注意深く見ると鉛板の上と下で粒子の軌跡の曲率が異なっていて、下方の軌跡が直線的で上方の軌跡が曲率が大きいことが分かります。この曲率の違いから鉛板を通過する前後のエネルギーの差(エネルギー損失)を計算することができます。

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この画像から考えられる可能性を挙げると以下のようになります。

仮説1)この粒子は陽子である。
この場合、磁界の向きから陽子が下から上に鉛板を貫通してエネルギーを失ったと考えられます。しかし、6mmの鉛板を通過する際のエネルギー損失が陽子の特徴と合致しません。よってこの仮説は否定的と考えられました。

仮説2)この粒子は電子である。
この場合は、磁界の方向から電子が上から下に鉛板を貫通したことになります。しかし、曲率から考えると“貫通した後の方がエネルギーが高い(貫通して減速ではなく加速している)”ことになってしまいます。この仮説も物理法則からすると考えにくいです。

仮説3)この粒子はプラスの電荷を持つ電子である。
この場合、磁界の向きからプラスの荷電粒子が下から上に鉛板を貫通したことになります。そうすると、鉛板を通過する際に一定のエネルギーを失って減速したことで曲率の違いを説明することができます。また実際のエネルギー損失(63 million volt → 23 million volt)の大きさも電子の質量によく合致します。今までにない新たな粒子ということになりますが、この仮説が最も有力でした。


この粒子は今まで見つかってない新たな粒子ということになりますが、最終的に査読する科学者達にもこれは“プラスの電荷を持つ電子”という説が受け入れられ、1933年にその名の通り“The Positive Electron (*4)”というタイトルの研究論文として公表されました。そしてこれらは陽電子(ポジトロン:positron)として知られることになりました。これが初めて発見された反粒子/反物質です。このカール=アンダーソン博士はこの反物質(陽電子)の発見によって1936年にノーベル物理学賞を受賞しています(*6)。


反粒子/反物質 (antimatter) とは“電荷が反対で同じ質量の粒子”を表します(*5)。反物質の性質は物質と接触すると消滅します。実際に“電子”とその反粒子である“陽電子”が接触した場合、エネルギーを放出して消滅してしまいます。このため、もし陽電子が存在していても何かの物質と接触した瞬間に消えてしまいます。
ですから、反粒子や反物質は基本的には「この地球上に有るはずのない物質」と言えます。このため、この反物質が見つかったことは非常に高く評価されノーベル賞を受賞するに至りました。

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このことを形而上学的な観点からみると、「全てのものには対になるものが存在する」「全てのものには極性(polarity)がある」「全てのものには反対のペアが存在する」「正反対のもの同士は本質は同じ性質である」「全てと思っているものは実際は片方の側面でしかない」という法則が裏付けられたにほかなりません。この形而上学的な法則からすると「この反物質が存在することを何千年も前から説いていた」ことになり、「この世界はそのようにデザイン/設計されている」ということを示唆しています。そのような意味ではこの“反物質の発見”は人類にとって大きな進化の一歩であったかもしれません。


今回の研究で発見されたのは“陽電子(反電子)”ですが、もちろん“反陽子(antiproton)”も発見されています(*7)。その他のものにも反対の性質を持つペアの物質が発見されています。ただし、“電子と陽電子”、“陽子と反陽子”、“物質と反物質”これらはいずれも“物質”には違いありません。先に述べた「形而上学的な法則」からすると“物質”には“反物質”というペアが存在すると同時に、“物質ではないもの”も対応するものとして存在するはずです。このことを理解するのも宇宙の法則を理解するために必要不可欠でしょう。

そしてこの“反物質”には「その存在に意味があるのか」「何の目的があって存在している(または存在していない)のか」という疑問にぶつかります。しかし、その答えも人類の進化とともにいずれ明らかになるでしょう。この記事でもいずれ扱うことになると思います。


ところで最後に一つの疑問を提示しますが、Figure 9の画像ですがこの“陽電子”は“下から上に”飛んできています。宇宙線は上空から、つまり上から下に降り注いでいます。それなのになぜ陽電子は下から飛んできたのでしょうか。この現象の意味についてもまた解説したいと思います。


引用:
*1. Anderson CD. Cosmic-Ray Positive and Negative Electrons. Phys. Rev. 44, 406-416, 1933.
*2. Cowan E, “The Picture That Was Not Reversed”, Engineering and Science 46:2, 6-28, 1982.
*3. Clound chamber- Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Cloud_chamber
*4. Anderson CD. The Positive Electron. Phys. Rev. 43, 491-494, 1933.
*5. 反物質−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/反物質
*6. The Nobel Prize in Physics 1936.
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/1936/summary/
*7. CHAMBERLAIN, Owen, et al. Observation of antiprotons. Physical Review, 1955, 100.3: 947.

画像引用 
*a. https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ファイル:Blausen_0615_Lithium_Atom.png
*b. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/archive/1/1c/20200110203511%21Water_molecule_3D.svg
*c. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/05/Glucose.PNG
*d. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c9/Selenocysteine_skeletal_3D.svg
*e. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/76/Particle_Tracks_in_AWAN_Expansion_Cloud_Chamber.jpg
*f. https://flasheducation.co.in/question-answer/state-flemings-left-hand-rule

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