No.034  “見えない・捉えられない”素粒子:ニュートリノ編

今回も、この世界の真の法則を知る、その全てを理解する、外界の全てを知ることは己の内面世界を知ることでもある、ということで純粋な知性の世界、形而上学/形而下学の世界を探究する瞑想を行なっていきましょう。

これまで“存在しているはず”なのに“全く見えない・観測できない”ものがある、そしてそれは遠い銀河だけではなく、我々のいる天の川銀河にも見えている星々の数倍〜10倍もダークマターが存在している、ということを紹介しました(*1, *2)。ダークマターについては未だに謎だらけでどのような物質であるのかほとんど解明されていません。

ダークマターの研究を紹介する前に、今回は近年まで解明されていなかった素粒子“ニュートリノ”について掘り下げていきたいと思います。


・ニュートリノとは?
ニュートリノは素粒子の一種です。図1に示す素粒子が現在まで解明されている17種類の素粒子です。現在我々が知覚している世界(科学的に捉えられる形而下の世界)は全てこれらで成り立っている、と言い換えてもよいでしょう。

この中の左下の3つがニュートリノの仲間です。電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノと3種類(3世代)ありますが、特に言及が無い場合はこのうち最も基本的な電子ニュートリノのことを指していると考えて良いです。
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・ニュートリノの重さ(質量)は?
よく知られている軽い素粒子の“電子”は陽子や中性子の重さの約2000分の1とされています。電子の重さをkgで表すと9.1×10^-31kg(1ミリグラムの1兆分の1の1兆分の1)という重さです。ニュートリノの重さの上限は3.6×10^-36kg(<2eV/c^2:エネルギーで表記)なので電子の20万分の1以下の重さとされています(*4)。重さも非常に軽く、重力にも捕捉されにくい素粒子です。

・ニュートリノはどこにあるのか?
ニュートリノは我々の周囲にありふれています。地球上から宇宙空間までどこにでもあると言ってもよいでしょう。

・ニュートリノはどこで発生する?
最も分かりやすいのは太陽から発せられる太陽ニュートリノです。太陽では絶え間なく核融合反応が起きており、エネルギーが放出されています。その一部が太陽光(紫外線/可視光線/赤外線)として地球に降り注ぎ、同時にニュートリノも地球に降り注いでいます。

次が大気からのニュートリノで、宇宙からの宇宙線が大気圏の原子核と反応しニュートリノが生成されます。
頻度は少ないですが、“超新星爆発(*5)”でも大量のニュートリノが放出されます。核融合反応が盛んに発生する状況ではニュートリノも大量に生成されます。
身近なところでは放射性物質のベータ崩壊(図2, *6)という分裂過程で発生します。

 β-崩壊:n(中性子)→ p+(陽子) + e-(電子) + ν*(反電子ニュートリノ) (式i)
    例:42Ar(アルゴン42)→42K(カリウム42)
 β+崩壊:p+(陽子)→ n(中性子) + e+(陽電子) + ν(電子ニュートリノ) (式ii)
    例:132Nd(ネオジム132)→132Pr(プラセオジム132)

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・ニュートリノの存在はいつから知られていたのか?
1930年にさかのぼり、ドイツの物理学者ヴォルフガング・エルンスト・パウリ(*7)が放射性物質のベータ崩壊(図2)を調査していました。しかしながら、「崩壊後の運動エネルギーの増加が質量の減少と一致しない」ということが分かりました。これによりパウリは「電荷を持たない何らかの粒子がエネルギーを持ち去っている」と主張しました。当時のパウリ氏はこのことを手紙に記して知人宛に送っていて(図3)、これがニュートリノの概念を記した記録で最も古いものと考えられています。

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・ニュートリノが初めて発見されたのはいつ?
パウリの手紙から20年以上後、1950年代にライネス氏とカワン氏らの実験によって原子炉から発生したニュートリノビームを水に当て、水分子中の原子核とニュートリノの反応から発生した中性子と陽電子を観測することでニュートリノの存在が証明されました(*9)。

・自然界のニュートリノが発見されたのはいつ?
1987年2月、日本の岐阜県神岡鉱山の研究装置“カミオカンデ”(*10)によって宇宙から飛来するニュートリノが初めて観測されました。当初は「陽子の崩壊を検出する」目的で建設されたカミオカンデでしたが、進捗が捗らないため「ニュートリノを観測する」という方向へ方針転換しました。

1987年2月に太陽ニュートリノを測定する準備が整いました。しかしそれから間もない1987年2月23日に偶然にも大マゼラン雲(天の川銀河から15〜6万光年離れた銀河)で超新星爆発が起こりました。この爆発により地球に大量に降り注いだニュートリノ/反ニュートリノがカミオカンデや海外の施設でも観測されることとなりました。


・なぜニュートリノの予想から50年以上見つからなかったのか?
ニュートリノの特徴の一つとして「他の物質とほとんど相互作用しない」という性質が挙げられ、これが観測困難だった理由と考えられます。

・他の物質と“相互作用しない”とはどういうことか?
この世界の物理法則の基礎となる4つの相互作用“電磁気力/強い相互作用/弱い相互作用/重力”というものがあり、過去の記事“宇宙の創造・維持に不可欠な4つの力(*11)”で解説しているのですぐにピンと来ない方はまずそちらを一読して頂くと良いです。
“相互作用しない”ということは“ある特定の力が作用しない=無効である”ということになります。例として“光子(光)は重力と相互作用しない”ので、光は重さを持たず重力に引きつけられることはありません(重力は空間を歪めるので実際は光は重力で屈折するが、重力に引っ張られるわけではない)。
ニュートリノに関しては、
「電磁気力と相互作用しない」→光で観測できず、軌道電子と衝突したりしない
「強い核力と相互作用しない」→陽子等を保持している強力な力の影響も受けない
「重力との相互作用はある」→但し、前述の様に非常に軽く影響は受けにくい
「弱い核力との相互作用はある」→原子核と衝突して反応することがある
ということが分かっています。

このため、図4上段に示すようにニュートリノは原子をほぼ素通りし、影響を与えずに透過していきます。対して、電磁相互作用を持つ光子や電磁波(紫外線やガンマ線など)は原子核や軌道電子と相互作用するので、衝突/屈折したり軌道電子を弾き飛ばしたりして原子に影響を与えます。

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・どのくらいのニュートリノが太陽から私達に降り注いでいるのか?
計算すると太陽から来るニュートリノは1秒間に数百兆個(>10^14個!)も我々の体を通り抜けていっています。

・ニュートリノの人体への影響は?
太陽から大量に放射されている紫外線とニュートリノ、どちらも目には見えないし皮膚で感じることもできません。図4に示される通り、ニュートリノの場合は浴びてもほぼ反応せず透過していくため人体には影響がありませんが、紫外線の場合は皮膚の細胞の原子と相互作用するので“日焼け/炎症”といった形で人体に影響を及ぼします。「相互作用しない」という性質は「見えない・触れない」だけでなく、「電磁波のような影響も及ぼさない」ということが言えます。

・では相互作用しにくいニュートリノをどうやって観測したのか?
神岡鉱山地下1000メートルに3000トンの純水を用意し、その壁に巨大なセンサー(光電子増倍管)を敷き詰めたものが観測装置“カミオカンデ”として建設されました(図5)。
観測したい反応は上の式(i),(ii)を変形した以下の反応になります。
 ν*(反電子ニュートリノ) + p+(陽子) → n(中性子)+ e+(陽電子)  (式i')
 ν(電子ニュートリノ) + n(中性子)→ p+(陽子) + e-(電子)    (式ii')

エネルギーの高いニュートリノ/反ニュートリノから生成された一部の粒子は水中で光の速さを超える場合があります。その時に発生する光がチェレンコフ光(*13)と呼ばれますが、この光がカミオカンデ内部のセンサーに感知されることでニュートリノの存在を確認することが可能になります(図5右下)。

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・なぜカミオカンデのような大掛かりな研究施設が必要なのか?
地下1000メートルに建設されたのは“余計な物質が飛来しない”ためです。厚さ1000メートルの壁を通り抜けて来れる粒子はニュートリノなどごく一部に限定されます。
3000トンもの水を用意したのは、“反応の確率を高めるため”です。 3000トンの水には10^34個のH2O分子が含まれます。多ければ多いほどニュートリノと陽子/中性子の衝突確率が上がり、上の式(i')/(ii')の反応の確率が高くなります。 

・実際にニュートリノが観測されたときの状況は?
前述の1987年2月23日の超新星爆発の様子が図6に示されています。見て分かる通り、右下に巨大な発光が観測されています。15万光年ほど離れた地球から見てもこの規模の爆発なので想像を超えるエネルギーと粒子が放射されたと考えられます。実際にこのときのカミオカンデの観測結果はどうだったかというと、「11個のニュートリノの痕跡が観測された」とのことです。

同時期に米国の施設からもニュートリノ観測の報告があり、そちらでも「8個」という希少な観測データが得られました。3000トンの水を用意して、一つの銀河で数十年に一度の超新星爆発をもってしても「11個」ということから“いかにニュートリノの相互作用を観測するのが希少で困難であるか”ということが分かります

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・「見えない/触れない」物体に一歩近づいた
こうしてパウリの予想から50年以上を経て多くの科学者たちの探究の成果によって自然界のニュートリノを実測するに至りました。「相互作用しない」物質というのはあらゆるものを素通りしてしまう、捉えようがない、という点で非常に観測や解析が非常に困難だということが垣間見えます。そしてこの発見によりカミオカンデでニュートリノ天文学の基礎を築いた小柴昌俊氏は宇宙科学分野への功績を讃えられ2002年にノーベル物理学賞を授与されています。

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・ノーベル賞受賞の小柴氏の言葉
2002年にノーベル物理学賞を受賞した際の記者のインタビューで「この研究は何の役に立つのでしょう?」と聞かれて小柴氏は「普通の生活には何の役にも立ちません」と答えました(*15)。これは小柴氏からすると何の狙いもない率直な返答であったと思いますが、とても大事なことで瞑想の意識に通じることだと思われます。「役に立つ」=「損得に関わる」ということにつながります。瞑想で言うと「損得に関わること」=「日常生活」「お金のこと」「人間関係」「仕事/昇進」「経済活動」「家庭親戚」これら全ては「ストレスの原因」となる「雑念」に他ならないからです。

小柴氏にしてもパウリ氏にしてもアインシュタイン氏にしても偉大な科学者らの原動力は「損得」「役に立つかどうか」ではなく純粋に「神が創った法則を知りたい」「真実を捉えたい」という精神であったかと思います。そういう意味ではこういった科学者らの研究のことを考えている時の意識は瞑想状態に近かったのではないかと思われます。

私自身もこれまでの記事を書いていて何か日常生活で得をするわけではないですし、読者にとってもこのニュートリノに関する記事を読んで日常生活で役に立つことはないと思います。忙しい人は読む必要は無いでしょうし、読める時間がある人は読んでもらえたら嬉しいと思います。但し、このような日常生活に関係しない記事を読む時間のある人や、1日2時間以上瞑想に時間を割ける人は「損得の世界」には住んでいないと思います。そのような損得勘定なしで記事を読む人が増えると嬉しいですね。

ちなみにニュートリノには宇宙創造の秘密がまだ隠されています。通常は粒子にスピンがあり“右巻き”と“左巻き”いずれかを保持していますが、“ニュートリノには左巻きしかない(しか見つかってない)”ということが知られています。この不思議な性質に関しても後ほど解説していきたいと思います。

引用:
https://note.com/newlifemagazine/n/n594654ee1eb3
https://note.com/newlifemagazine/n/ned28052f0b6b
*3. 標準模型−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/標準模型
*4. 質量の比較−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/質量の比較
*5. 超新星−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/超新星
*6. ベータ崩壊−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ベータ崩壊
*7. ヴォルフガング・パウリ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴォルフガング・パウリ
*8. CERN Scientific Information Service.
http://library.cern/archives/history_CERN/historical_images/month-88-years-ago
*9. ニュートリノ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ニュートリノ
*10. カミオカンデ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/カミオカンデ
https://note.com/newlifemagazine/n/n90c2cc2fab80?magazine_key=mb580e4b26aa4
*12. スーパーカミオカンデ公式HP
https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/
*13. チェレンコフ放射−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/チェレンコフ放射
*14. 小柴昌俊−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/小柴昌俊
*15. エコノミストOnline記事 2020年11月15日
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201115/se1/00m/020/001000d

画像引用 
https://www.dkfindout.com/us/science/solids-liquids-and-gases/inside-an-atom/
https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/
https://astrorav.com/2016/10/02/creating-the-world-again/

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No.033 私達の周りにもあった、未知の物質:ダークマター(2)

今回も、この世界の真の法則を知る、その全てを理解する、外界の全てを知ることは己の内面世界を知ることでもある、ということで純粋な知性の世界、形而上学/形而下学の世界を探究する瞑想を行なっていきましょう。

前回は“存在しているはず”なのに“全く見えない・観測できない”ものがある、ということを紹介しました(*1)。「観測できる星の質量を全て足しても、運動力学的に計算される重力と釣り合わない」、「見えている物質よりも10倍以上の質量の“何か”が存在している」という事実がツヴィッキー博士らによって提唱されました(*2)。これらは“ダークマター暗黒物質、*3)”と呼ばれ今だに直接的に観測されたことがありません。

“重さ(質量)”だけが存在し、“影も形もない”、この21世紀のハッブル宇宙望遠鏡や最新のジェームス・ウェッブ望遠鏡(*4)をもってしてもその姿を捉えることができません。ルービン博士がお隣の銀河アンドロメダ銀河を計測した結果も同様で「見えている天体の質量よりも10倍以上重い」という計算結果が導かれました(*5)。もしかしたら本当のアンドロメダ銀河は図1右側のように見えている以外のものがたくさんあるかもしれません。

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そして、よりマクロな視野で見ると実際の銀河は“見えない何か(ダークマター)”でつながっているのではないか、という説があります。図2に示す様に、一般的な我々の認識では図2左側のように宇宙空間の中で個々の銀河が散らばって存在しているというのが常識です。但し、図2右側のように本来は銀河間をつなぐ“何か”が存在していて銀河同士がネットワークを構築しているように存在している、という説があります。この点に関する新たな発見を紹介します。
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・見えないものを可視化する研究
カナダのウォータールー大学のある研究者らは近接する銀河は図3右(想像図)に示す様に“本当は見えない何かで繋がっているのではないか”と考え、この“銀河同士をつなぐ見えない何か”の観測を試みました(*6)。画像ではもちろん、この“何か”は可視光線や赤外線やUVを使っても全く見ることができません。この“未知の物質(ダークマター)”は光子(photon)や電磁波と相互作用しない(反射もせず透過してしまう)ため、これまでの説明通り「見ることも触れることもできない」のです。

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このような“質量だけが存在し見えない未知の物質”に対して彼らが用いた方法が“重力レンズ(*7)”による観測です。この原理を簡単に説明すると、図4に示すようにある天体から発せられた光が地球に届くまでの間に質量の大きな天体がある場合、重力による空間の歪みのために“凸レンズを通して見たような背景の歪み”が観察されます。ブラックホールによる重力レンズが有名ですが、銀河のような大規模な天体でも重力レンズ効果が得られます

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この重力レンズを利用してHudson氏らがどのように研究したかを図5に示します。図5のように“近接して見える銀河”は宇宙に数多く発見することができます。しかし図5Aのように“実際に近い距離にある2つの銀河”もあれば、図5Bのように“近接して見えるが実際には非常に距離が離れている2つの銀河”のパターンもあります。

ここで仮説として図2右や図3右のように“近隣の銀河同士が実は見えない重い何かによってつながっている”とするならば、図5下段のように“AとBそれぞれで2つの銀河の間に何か違いが出るのではないか”と彼らは考えました。光学的に何も無いように見えていても、もし“重い何か”があれば重力レンズ効果で背景の歪みが観測できるのではないか、という研究方針です。

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実際にこのような銀河のペアを探索し、重力レンズによる背景の歪みを観測した結果は図6のようになりました。図6Bのように“近接して見えるが実際には距離の離れた2つの銀河”の間には重力の歪みはほとんど見られません。それに対して図6Aのように“実際に距離が近い2つの銀河”の間にはオレンジ色の橋がかかったような信号が見られます(黄矢印)

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このように、この研究においても「銀河と銀河の間にも確かに“見えない何か”が存在している可能性が極めて高い」ということが科学的に証明されました。どうやら宇宙の姿は我々が常識的に知っているアンドロメダ銀河(図1左)、銀河団(図2左)、双子銀河(図3左)ではなく、真の姿は図1右や図2右や図3右のような想像を超えた姿をしている可能性が高そうです。

・私達の住む地球のある天の川銀河はどうなのか
私達の住む地球があるこの銀河には太陽のような恒星は幾つあるかというと、おおよそ1000億〜4000億個ほどと言われています(*8, *9)。この太陽系も太陽の質量が99.9%を占めるように、銀河の“見えている天体”の質量は太陽のような恒星の数で概算することが可能です。
そうすると、巨大ブラックホール(太陽の数百万倍の質量)を含めたとしても天の川銀河の質量は恒星の合計である1.0〜4.0×10^11乗個の太陽の重さであると概算できるはずです。

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そして、我々の天の川銀河の質量を運動力学的に計算した科学者らがいました(*10)。2019年に発表されたオランダのPosti氏らは天体の運動だけではなく、天体の中の金属の成分なども考慮に入れて現代の科学で出来る限りの非常に精密な計算を行いました(図8)。その計算結果はなんと、この銀河系の質量は太陽約1.3×10^12乗個分もあることが判明しました。

単純に計算すると、この天の川銀河は「見えている星の数よりも3〜10倍ほど重い」ということが言えます。そして彼らの計算結果によると中心からある範囲(6万5千光年)内の質量の約70%がダークマターである、と結論づけています。

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・私達の周りにもやはりあったダークマター
これまで示されてきた“全く見えない未知の物質:ダークマター”は遠いかみのけ座銀河団(*2)や隣のアンドロメダ銀河(*5)に存在していることはこれまでも示されていましたが、やはり我々が住む地球があるこの天の川銀河にもダークマターは存在しているということがほぼ確実なようです。

我々が知っている天の川銀河は図9左側に示すものがNASAからも公式に発表されています。しかし、実際は図9右側の想像図に示すように見えていない未知の物質に覆われ、近隣の銀河と何かでつながっているかもしれません。図2右、図3右の想像図のように銀河同士が何かで連結され、宇宙規模の壮大なネットワークを構築しているかもしれません。
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・我々は未知の物体に囲まれながら気付かずに生活している
先ほど説明したように、“我々が知覚できる銀河はその全質量の10〜30%程度”ということが科学的に解明されました。ただし、「残りの質量の70%以上を占めているものは何なのか?」という問いには未だ科学で答えは出ていません
21世紀の最新の科学をもってして得られた答えが「我々が今まで知覚していた世界は全質量の1/3以下に過ぎなかった」ということになります。「人類以外に知的生命体はいない」「見えない星など存在しない」「異次元世界・平行世界などどこにも存在しない」という考えはかつては常識的だったかもしれません。
しかし、最新の科学を知れば知るほど、逆にあらゆる可能性を否定できなくなってしまいます。「人類が如何に無知であるか」を知ることこそが「進化への第一歩」であることは少なくとも間違いありません。この未知の物質を解明する取り組みについてまた今後紹介していきたいと思います。


引用:
https://note.com/newlifemagazine/n/n594654ee1eb3
*2. Zwicky F. ON THE MASSES OF NEBULAE AND OF CLUSTERS OF NEBULAE. The Astrophysical j. 86.3.p217, 1937
*3. Dark matter- Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Dark_matter
*4. ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
*5. Rubin V and Ford WK Jr. ROTATION OF THE ANDROMEDA NEBULA FROM A SPECTROSCOPIC SURVEY OF EMISSION REGIONS*. The Astrophysical J, 159,p379, 1970
*6. Epps SD, Hudson MJ, The weak-lensing masses of filaments between luminous red galaxies. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, Volume 468(3), p.2605-2613, 2017
*7. 重力レンズ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/重力レンズ
*8. How many stars are there in the universe. Universe Today.
https://www.universetoday.com/102630/how-many-stars-are-there-in-the-universe/
*9. How many stars are ther in the universe. The European Space Agency.
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Herschel/How_many_stars_are_there_in_the_Universe
*10. Posti L and Helmi A. Mass and shape of the Milky Way’s dark matter halo with globular clusters from Gaia and Hubble. Astronomy & Astrophysics 621, A56 (2019). https://doi.org/10.1051/0004-6361/201833355

画像引用: 
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンドロメダ銀河
https://vi.wikipedia.org/wiki/Thiên_hà#/media/Tập_tin:NASA-HS201427a-HubbleUltraDeepField2014-20140603.jpg
https://www.esa.int/ESA_Multimedia/Images/2015/07/Gravitational_lensing
https://phys.org/news/2017-07-evidence-impacts-milky-galaxy.html
https://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/milkyway-full.jpg

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No.032 存在しているはずなのに科学的に観測できないもの

今回は、“この世に存在するものは科学的に証明されたものだけ”なのか、それとも“科学で証明できてないものが数多く存在する”のか、この命題について紐解いていきます。瞑想とは自己の内面に意識を向け自我を消し去り外界と融合し、全てを知る超自我へと昇華していく方法であることは多くの瞑想法で共通しています。今回もこの世界の“真理”について知り、考え、想像し、瞑想していきましょう。

・惑星の軌道の法則を導いたケプラー
我々の住む地球と太陽系について考えてみると、ご存知のように太陽を中心に水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星というように天体が公転しています。この公転周期(太陽の周囲を回転する周期)には一定の法則があり、ケプラーの法則として知られています(*1)。

ケプラーの第1法則(楕円軌道の法則)、第2法則(面積速度一定の法則)、第3法則(惑星の公転周期の2乗は軌道長半径の3乗に比例する)というこれらの法則で太陽系惑星の動きに関して大きく理解が前進しました。この法則がケプラーによって世に公表されたのは1609年(*2)と今から400年以上前のことであり、その当時の貴重な文献の一部分を図1に引用します。日本では江戸時代初期の頃から宇宙に対する探究がここまで進んでいたことには驚かされます。

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・太陽系の惑星の公転周期と法則
これらの法則も応用することによって太陽系の惑星・準惑星の軌道や周期はほぼ正確に観測することができるようになりました。実際に公転周期を計測すると、地球が1回公転する時間(地球の1年)の間に各惑星がどのくらい移動するのかを図2に示します。

地球の1年の間に水星は約4.2周、金星は約1.6周、火星は約0.5周、木星は30度(1/12周)、土星は12度(1/30周)、天王星は4度(1/90周)、海王星は2度(1/180周)、冥王星は1.5度(1/240周)移動します(図2)。この図を見て分かることは、“内側の惑星ほど角(公転)速度が速く、外側の惑星ほど角速度が遅い”という法則が見えてきます。
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これは惑星に対して外向きに働く力(遠心力)と惑星に対して内向きに働く力(重力/引力)が釣り合うためのバランスを取るためと言えます。水星のように太陽に近いと重力(距離の2乗に反比例)の影響を強く受けるため、速く公転しないと遠心力が釣り合わず、反対に海王星や冥王星のような外側の天体は太陽からの重力が弱いので公転速度が速すぎると太陽系外に飛び出してしまいます。

このように、各天体の質量/重力や位置関係が分かると公転周期を求めることができ、逆に公転周期や軌道の天体の質量から中心部分(コア)の質量や重力を求めることが可能になります。 


・かみのけ座銀河団の質量を計算したスイスの科学者
時は1900年代に変わり、スイスのツヴィッキー(Fritz Zwicky)博士という天文学者がいて、この博士は大質量の星が起こす爆発“超新星(Supernova)*4”の研究の第一人者でした。この天文学者は研究の一環で“かみのけ座銀河団(Coma Cluster)”という銀河の集団について研究していました。各銀河の光度や運動を観測し、銀河団の質量を求めようというものです(*5)。
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かみのけ座銀河団(*6)について図3に観測画像を示していますが、図3左は1937年のZwicky氏による観測図で図3右は現代の観測データに加工を施して得られた画像です。注意して頂きたいのは、この点や光の粒の一つ一つが星ではなく銀河であることです。観測している銀河団は3.2億光年離れた位置に存在しているため撮影範囲も膨大な広さになります。この点一個が直径10万光年ある我々の天の川銀河と同クラスであることを想像し、如何に広大な領域を観測しているかを認識してください。

この時期にはある程度計測方法も確立してきていて、その天体の明るさ(光度)から“太陽の何個分”というように質量を求める方法(*7)(太陽系惑星全て足しても太陽の1/1000程度というように銀河の質量はほぼ恒星の数で概算できる)が知られていました。また、ツヴィッキー氏も使用した運動力学的に解を導出するビリアル定理(*8)といった手法も確立されていました。


・計算したら衝撃的な結果だった
ツヴィッキー氏は当時の観測データから、各銀河の直径、中心点からの距離と回転速度、運動エネルギー、重力定数、銀河団の中心と辺縁の運動、3次元的回転モデル、ポテンシャルエネルギーなど、当時判明しているあらゆる要素を漏らさずにチェックして計算結果を導きました。図4にその計算過程の一部を示しますが、実際の研究論文では30以上の方程式を用いて解を導き出しています。興味のある人は式を紐解いても良いと思いますが、結論だけで良いという人は図4下の赤枠にのみ注目してください。
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これらの計算の結果、予想を覆す答えが出てしまいました。図4赤枠に示す通り、かみのけ座銀河団全体の質量を各銀河の光度から算出すると「太陽質量の8.5×10^7倍」となるのに対し、運動力学的な計算法(回転速度や重力から質量を求める方法)では「太陽質量の4.5×10^10倍=4500×10^7倍」と全く異なる結果が出てしまったのです。

その差は実に500倍以上(!)。もちろんツヴィッキー氏は天文学者であり何度も過程を検証した上での計算結果であり、“超新星”といった大質量天体の専門家でもあったのでそういった存在も全て計算のうちに入っていたはずです。しかし、銀河の運動からするとこれだけの銀河団が高速運動しても離散させずに引きつけている“巨大な重力”が存在していると考えざるを得ません。しかし当時の高精度の望遠鏡でも光学的には巨大質量の原因となるものは全く観測されません。このときこの“何か正体の分からない質量や重力の原因”を“ダークマター(暗黒物質)”と呼びました。


・見えない“何か”をさらに裏付ける研究
その後の1970年、ヴェラ・ルービン(*9)というアメリカの女性天文学者がアンドロメダ銀河に関する奇妙な研究データを発表します。
アンドロメダ銀河(*10)は地球から約250万光年離れたところにありますが、夜空の視界が良ければ肉眼でも見える銀河です。直径は約22万光年で我々の天の川銀河(直径約10万光年)からすると直径が2倍以上ある巨大な銀河です。
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ルービン氏はこのアンドロメダ銀河を観測し、その回転速度と質量を導きました(*11)。すると、またもや予想と異なる結果が出てきました。図2の太陽系の公転速度一覧に示した通り、通常ならば“内側の天体ほど速く公転し、外側の天体ほど遅く公転する”はずです。ところが、ルービン氏らの観測データでは図6左に示すように、“アンドロメダ銀河の外側部分の星々も内側の星々と大きく変わらない速度で公転している”という結果が得られたのです。
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さらに、“運動から計算される銀河の質量”/“光度から計算される銀河の質量”の比を求めたところ、やはり“運動力学的な質量”が“光学的な質量”よりも10倍以上大きいという結果が出ました(図6右表赤枠)。

先のツヴィッキー氏の研究結果と同様に、このルービン氏の研究からも「銀河が高速回転しても星を引きつけておける大きな重力を持つ何か」が存在していることが示唆されました(図7)。

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・重力の正体はブラックホールでもなかった
近年では2019年に日本の研究チームが謎の質量の正体について“微小な原始ブラックホール”である可能性を検証していましたが、この説も“ブラックホールの可能性は否定的である”という結論に至っているようです(*12)。結果としては“観測されたブラックホールの数が想定するよりも非常に少なかった”ということと、“観測されたブラックホールでは謎の質量の0.1%程度にしかならない”という内容でした。


・どこにも見当たらない
一定の範囲を超えて大きな質量を持つ星は内部の核融合反応によって太陽のような自ら光を放射する「恒星」になります(*13)。これら太陽のような恒星に比べると地球や木星といった惑星の質量は微々たるものであり、「恒星の質量の総和が推測できればその(見えている)天体の質量の総和を推測できる」という考えで間違っていません。

そして恒星は可視光線、赤外線、紫外線、ガンマ線といった何らかの電磁波を常に放射しています。なので、そのような天体があれば何十億光年先のあらゆる波長の電磁波をも検知できる大型の天体望遠鏡で何らかの信号をキャッチすることが出来るはずです。しかし奇妙なことに天体望遠鏡や人工衛星でもそのような天体や物質は未だ観測できていません。 

・正体不明の物質(?):ダークマター
このように“全く見えず視覚的に捉えることが出来ない”という観点からこの正体不明の質量は“ダークマター(暗黒物質:dark matter)”と呼ばれています。“ダーク/暗黒”と言っても善悪の概念ではなく“見えない/正体不明”という意味でこう呼ばれています。正体不明の巨大質量というとブラックホールも頭に浮かびますが、先述の通りブラックホールのような空間を歪めるほどの大質量の可能性は今のところ否定的です。
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“見えない”ということは“光を発しない/光を反射しない/光を遮らない”、つまり“光や電磁波と相互作用しない”という性質を意味しています。しかしながら、“銀河の運動を見ると質量が見かけの質量の10倍〜500倍ほど大きい”というこれまでの研究結果から“確実に何かが存在していることは間違いない”と言えます。もしかしたらアンドロメダ銀河も科学的に観測されている写真(図8左)ではなく、全てが見えたら実際の姿は図8右のような様々なものが写っているかもしれませんね。

・“見えているものが全て”と思わないこと
我々は普段目で見ているものを信じ、科学的に証明されたことを信じて生活しています。ただ、ツヴィッキー博士やルービン博士らが示したように、“確実に存在していそうなのに科学的に姿を捉えられないものがある”ということが“科学的に証明された”と言えます。もちろん常に“新たな発見”は“それまで科学的に証明されてなかったことの証明”の連続です。一流の科学者達にとっては誰かに「そんなこと科学的ではない」と言われても「だから何なのだ?だから探究するのだろう」と全く取り合わないでしょう。

我々が見ているアンドロメダ銀河は実際の1/10以下かもしれないし、かみのけ座銀河団も本当の姿の1/500しか見えてないかもしれません。もちろん、我々の住む日常の世界も同じことが言え、もし物質として知覚できない世界(形而上学的世界)が見えたとしたら全く違う光景かもしれません。普段我々が認知している世界が如何に狭い領域かを認識し、瞑想によって宇宙の真の姿を理解し真理に近づいていきましょう。


引用:
*1. ケプラーの法則−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ケプラーの法則
*2. Johannes Kepler, Astronomia nova (1609), pp. 165–167.
*3. Fritz Zwicky−Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Fritz_Zwicky
*4. 超新星−天文学辞典. https://astro-dic.jp/supernova/
*5. Zwicky F. ON THE MASSES OF NEBULAE AND OF CLUSTERS OF NEBULAE. The Astrophysical j. 86.3.p217, 1937
*6. かみのけ座銀河団−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/かみのけ座銀河団
*7. Kuiper GP. The Empirical Mass-Luminosity Relation. The Astrophysical J, 88,p.472, 1938
*8. ビリアル定理−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ビリアル定理
*9. ヴェラ・ルービン−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴェラ・ルービン
*10. アンドロメダ銀河−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/アンドロメダ銀河
*11. Rubin V and Ford WK Jr. ROTATION OF THE ANDROMEDA NEBULA FROM A SPECTROSCOPIC SURVEY OF EMISSION REGIONS*. The Astrophysical J, 159,p379, 1970
*12. Niikura H, et al. Microlensing constraints on primordial black holes with the Subaru/HSC Andromeda observation. Nature Astronomy 3, p524–534 (2019)
*13. 恒星−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/恒星

画像引用: 
https://ja.wikipedia.org/wiki/かみのけ座銀河団#/media/ファイル:Ssc2007-10a1.jpg
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンドロメダ銀河
https://cdn.britannica.com/05/94905-050-1830515C/Whirlpool-Galaxy-NGC-5195-Sc.jpg

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