No.031  宇宙の創造・維持に不可欠な“4つの力”

今回も、我々の理解を遥かに超える宇宙の神秘に想いを巡らせる「宇宙瞑想」をやっていきましょう。

前回は「宇宙の始まり:ビッグバン」、「創成期の宇宙の状態」、「いかにして“物質宇宙”が誕生したか」について科学的側面を主体に解説しました(*1)。しかし、ただ物質がそこにあるだけでは何も起こりません物質間の“相互作用”という力が働くことで世界が機能していきます。

いわゆる“物理法則”、“自然界の法則”と呼ばれるルールで、どのようなものがあるかというと図1に示すように「プラスとマイナスが引き合う、マイナス同士が反発し合う」「原子核や軌道電子が形成される」「惑星同士が引力で引き合う」「磁界や電界が発生する」といった様々な力が存在しています。
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我々は小学校の理科の授業の時から当たり前のように「プラスとマイナスはくっつく」「地球には重力がある」と習ってきましたが、これらは生来その性質を持っているわけではなく、“何かによってこのような力を付与されている/何かが力を発生させている”と言い換えることができます。

・標準理論(標準モデル)
標準理論とは、この世界の物質や相互作用のほぼ全てを素粒子として体系化したものです(図2,*2)。例えば、この表の左側にある“アップクォーク”と“ダウンクォーク”の組み合わせで陽子や中性子を作ることが可能です。そしてその下に電子があるので、この3つの素粒子だけで地球上に存在するあらゆる原子を生成することが可能です。今回は物質を形成する素粒子ではなく、右の破線で囲まれた“相互作用/力の伝達を司る素粒子に焦点を当てて解説していきます。

力の素粒子が力を発生させる方法としては、“これらの力を媒介する素粒子が力の作用する物質間で交換されることにより力が発生する”、または“力の素粒子のエネルギーに満ちた「場」に物質が入ることによってその物質に力が発生する”というように考えられています。
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・4つの力(1):電磁気力
まず最初に誰でも聞いたことがあり、日常でも触れる機会の多いのがこの電磁気力です(図3, *3)。図にはイメージ画像を掲載していますが、形而上学的には「力を司る存在達」「宇宙の法則を維持する存在達」がいることになっているのでそう思って見てください。記号や文字の羅列が苦手な“理系アレルギー”の人にはこういう存在達の方が頭に入りやすいと思います。
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電磁気力とは電気が関与するあらゆる物がこの力によって動作しています。照明や電化製品など私たちの生活では切り離せない存在となっています。電磁気力を媒介する素粒子は“光子(photon)”です。光子とは我々が見ている“光”そのものです。正確にいうと、光子=電磁波であり、電波やラジオ波/赤外線/可視光線/紫外線/X線など全てが電磁波の一種で、我々が目に見える“光”と呼んでいるものはそのごく一部分に過ぎません。

ただし、もっと基本的な働きとしては「分子同士がすり抜けずに反発する(図3A)」、「物質が光と相互作用し反射する(図3B)」、「原子同士が電子を介して結合する(図3C)」という法則にも寄与しています。つまり、「我々が物に触れられる」「光を通じて物を見ることができる」「我々の体を構成する原子同士が結合している」のはこの“電磁気力”の相互作用があるからと言えます。


・4つの力(2):強い核力
この“強い核力”(*4)というのはあまり聞くことはなく日頃意識することは無いですが、非常に重要な役割を担っています。その主な役割は“素粒子(クォーク)同士を結合させ、陽子や中性子を形成する”というもので、媒介する素粒子は“グルーオン”と呼ばれます。陽子や中性子の内部で働く力なのでその範囲は10^-15m(1フェムトメートル)という極めて小さな範囲で作用します(図4)。また、原子核で陽子や中性子を結合させているのもこの“強い相互作用”が担っています。

この力の特徴としてはその名の通り“非常に強力”という点が挙げられます。具体的には10^-15mという極小距離において他の力と比較すると、電磁気力”の約137倍、後述する“弱い核力”の約100万倍、“重力”の約10の38乗倍という驚異的な強さを持っています。このために電気的には反発する陽子同士の電磁気力を抑え込んで原子核を形成しています。

その代わりその有効範囲は非常に小さく、原子核の大きさを超える範囲では急に弱まり無視できる程度になります。これにより、原子核をまとめつつ周囲の軌道電子には影響しないという絶妙なバランスを保っています。
このように、“強い核力”は見えないところで原子の存在自体を維持している“縁の下の力持ち”的な存在です。
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・4つの力(3):弱い核力
次に説明するのは“弱い核力(弱い相互作用*5)”ですが、これも4つの力の中ではあまり一般には知られてないと思われます。媒介する素粒子はW/Zボソンと呼ばれ、上にある通り、その強さは原子核を結びつける“強い核力”に比べると約1/100万と小さく、有効範囲も10^-16〜10^-17mと“強い核力”よりもさらに狭い範囲に限られています。

しかし、この“弱い核力”には変わった能力があります。この力は“素粒子(クォーク)を別のものに変える”という特殊能力があります。具体的には図5右上にあるように、中性子(アップクォーク×1+ダウンクォーク×2)のダウンクォークをアップクォークに変化させ陽子(アップ×2+ダウン×1)に変えることができます。この時、同時に電子1個とニュートリノ1個を放出して電気的にプラスマイナス0になります(図5右中)。
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中性子が陽子に変わると何が起こるかというと、「原子の基本的な性質は原子番号(陽子の数)によって決まる」という法則から、「原子番号が変わって別の性質の原子になる」ということが起こります。具体例では、アルゴン(Ar)は常温では安定した気体ですが、ベータ崩壊という弱い核力の作用によって金属のカリウム(K)原子へと変化します。

他にも“パリティ対称性の破れ”など特有の性質を持つことが知られていますが、他の力のように基本的に“引き合う/反発し合う”という力学的性質ではなく、“物質を変化させる”という点で非常にユニークな存在であると言えます。


・4つの力(4):重力
4つ目は誰もがよく知っている“重力”(*6)です。物質には質量があり、質量を持つもの同士の間には必ず重力が発生します。しかし、分子レベルにおいては重力はほぼ無視しても良いくらいに微々たる力です。上に挙げた“強い核力”と比較すると、その10^38乗分の1しかなく、強さだけで見ると最弱かもしれません。

しかし、その影響範囲は無限に広く、宇宙空間全てに到達するほどと言えます。“強い核力”/“弱い核力”は原子サイズを超えると殆ど影響力は無くなり、“電磁気力”も地球規模となると重力より力は弱くなります。太陽系の惑星の運動を見ると分かりますが、この規模になると全ての惑星はほぼ太陽の重力と惑星自身の重力によって公転運動が決定されていることが分かります。さらに太陽系どころではなく、直径何十万光年もある銀河の動きも重力によって支配されており、銀河同士が互いの重力によって衝突/融合する様子がハッブル望遠鏡で観察されています(*7)。
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重力を媒介する素粒子はヒッグス粒子(*8. 追記:未発見の重力子グラビトンはここでは割愛)ですが、ヒッグス粒子が粒子として存在しているというよりも“ヒッグス場”という“電場”や“磁場”のような領域を形成しています。簡略的に説明すると、そのヒッグス場の中にある物質は質量が付与され、重力が発生するという仕組みです(正確には“真空期待値”による“自発対称性の破れ”が質量付与に関与していますが詳細知りたい人はリンクを参照してください*9)。

このヒッグス場は宇宙誕生とともに全宇宙に行き渡っていると考えられています。なので現時点では“重力の存在しない領域”は宇宙空間で発見されてません。もしヒッグス場が無かったとしたら、地球は質量がゼロになるため、パチンコ玉とぶつかっても弾かれてどこかに飛んで行きます。そもそも物質に引力が働かないと星が誕生することができません。そういう点でも重力は宇宙の形成に不可欠な力と言えます。


・4つの力の特徴まとめ
これまで挙げた4つの力の特徴をまとめると図7のようになります。
・“電磁気力”は原子同士の結合に関与している普遍的な力。
 電磁相互作用によって我々は“物に触れる”ことができ、“電磁波によって物を見る”ことができる。
・“強い核力”は陽子や中性子を形成している強力な力。
 原子核が強固に結合しているのもこの力に支えられている。
・“弱い核力”は物質を変化/変容させる唯一の力。
 また他の力と異なり“パリティ対称性の破れ(*10)”の性質を持ち前の記事で述べた“物質と反物質から僅かに物質が残った”という物質宇宙の誕生の鍵を握っている。
・“重力”はミクロではゼロに近いが、無限遠方まで届く。
 宇宙では銀河同士を引き寄せ合うほど、またブラックホールという物理法則すら崩壊するほどの強大な力を発生させる。
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このように、宇宙の創造にあたって創造主はクォークや電子やニュートリノや反物質などを創り出しましたが、それだけでは現在の宇宙の姿にはなりません。ほぼ同数の物質と反物質から物質だけが残るには“弱い核力”の非対称性が作用していたと考えられ、出来たクォークから陽子や中性子を形成するのに“強い核力”が働き、電子が捕捉されて水素やヘリウムといった原子ができるのに“電磁気力”が作用し、このような物質のガスが引力によって凝集して星が誕生するのに“重力”が寄与しています。
このような“物質”と“力”、これらが揃って初めて宇宙が形成され、宇宙を維持している全ての要素として図2の標準モデルが物理学界の通説となっています。


・4つの力以外の力は存在しないのか?
現在物理学界では宇宙のあらゆる力はこの4つに集約されると考えられており、これらの3つ(電磁気力/強い核力/弱い核力)をまとめる大統一理論(*11)、さらには重力もまとめる超大統一理論を築こうと日々研究が重ねられています。しかし本当に宇宙に存在する力はこの4つだけなのでしょうか。

量子力学における不思議な性質を証明した実験として「二重スリット実験」というものがあります(*12, *13, *14)。これについてはさまざまな実験が為されていてこの瞑想記事でも何度も取り上げてきました(*15, *16, *17)

概要を図8に示しますが、起こる現象としては「1個の光子が二重スリットを通過する時、普通に行うと“波”として干渉縞が出現する(図8B)が、光子が通過した方を観測しようとすると“粒子”として振る舞い干渉縞が消滅する(図8C)」というものです。この現象のトリガーは他の一切の干渉を排除した結果「観測すること」であり、物理学界でも「観測問題」として認知されています(*18)
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この現象は「厳密な1個の光子による実験」なので、当然ながら「他の光子による相互作用」は排除されています。そして同一環境なので「重力の影響の変化」も考えられません。また、「クォークや原子核に作用する強い核力」もここでは考える必要がありません。もちろん「原子核崩壊を起こす弱い核力」の影響も考えられません

この実験系に影響しているものは実験者が「観測するかどうか」だけなのです。これまで挙げた“4つの力”では説明することができません。しかし、現実に変化が起こっている以上、「何らかの力が光子に相互作用を引き起こしている」と言えます。また、“意識が光子に変化を起こす実験(*16)”でも他の影響を全て排除した上で、何千キロも離れた場所から何らかの力が実験系に影響を及ぼしていることが示されています。
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この意識」や「観測という行為」がもたらす影響は二重スリット実験が世に知られるまであまり認知されてきませんでした。このため、最初に知られたときは物理学界に古典物理の常識を覆す大きな波紋をもたらしました。「光子や電子といった量子は光であると同時に波でもある」という見解には至っているものの、「何がどう影響して粒子と波を切り替えているのか」という点は未だ明確な解は得られていません(*17, *19)

ヒッグス粒子も発見されたのは2011年頃とごく最近のことであり、まだまだ人類には未知の力や素粒子があっても不思議ではありません。形而上学的に認知されていても科学的に証明されていないものはたくさん存在しています。もしかしたら我々の「意識」には科学的に証明されていない未知の力があるかもしれません。日々の瞑想で「意識」の力を最大限に発揮できるように磨いていきましょう。


引用:
https://note.com/newlifemagazine/n/n724aead9b9a4
*2. 標準模型−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/標準模型
*3. 電磁相互作用−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/電磁相互作用
*4. 強い相互作用−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/強い相互作用
*5. 弱い相互作用−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/弱い相互作用
*6. 重力−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/重力
*7. Hubblesite-HP. https://hubblesite.org/contents/media/images/2011/11/2837-Image.html
*8. ヒッグス粒子−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒッグス粒子
*9. ヒッグス機構−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒッグス機構
*10. パリティ−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/パリティ_(物理学)
*11. 大統一理論−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/大統一理論
*12. Jönsson C (1974). Electron diffraction at multiple slits. American Journal of Physics, 4:4-11.
*13. 二重スリット実験−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/二重スリット実験
*14. 単一フォトンによるヤングの干渉実験(浜松ホトニクス/1982年)(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c
https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a
https://note.com/newlifemagazine/n/n19342d9a4f56
https://note.com/newlifemagazine/n/nf66f91110a61
*18. 観測問題−Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/観測問題
https://note.com/newlifemagazine/n/n96af4cbc0890

画像引用: 
https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Blausen_0615_Lithium_Atom.png
https://en.wikipedia.org/wiki/Quark
https://wallpaper.dog/
https://www.pngfind.com

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No.030 宇宙の始まり:“宇宙創造のアルケミー”

今回も、我々の理解を遥かに超える宇宙の神秘に想いを巡らせる「宇宙瞑想」をやっていきましょう。以前、ハッブル氏の研究をきっかけに「宇宙は膨張し続けている」、「宇宙には始まりがあり、有限の空間である」と考えられていることを紹介しました(*1, *2)。今回はその宇宙の始まりはどのような様子であったのか、科学的/形而上学的に考えていこうと思います。宇宙の創造の過程を知りたい人には有益な情報となるでしょう。

まず現代科学においては宇宙の歴史は図1のように考えられています(*3)。左側に宇宙の始まりであるビッグバンが示され、そこから宇宙は高温高圧の状態で急激な膨張(インフレーション)を起こします。そして時間と共に宇宙が冷却され、宇宙の塵が集まり、様々な星や銀河を形成して図の右端に約137億年後の現在の宇宙が描かれています。今回は著名な物理学者であるジョナサン=オールデイ博士の著書"Quarks, Leptons and the Big Bang"(*4)に従って宇宙の誕生期の様子を想像していきます

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宇宙の誕生期の状態を知る前に我々の現状の世界では物質がどのような形態で存在しているかをおさらいします。

我々の生活できる環境(常温:約20℃=293K、1気圧)では図2の左に示すように、あらゆる物質は「分子」として原子同士が結合して存在しています。そして「原子」は中性子や陽子からなる原子核とその周囲を回る電子から成っています(図2中)。

そして原子核を構成する陽子や中性子は最小単位ではなく「素粒子(クォーク, *5)」の組み合わせで構成されています(図2右)。これが私達が生活できる環境における物質の安定した形態です。

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・宇宙の誕生:0秒〜10^-43秒後
最初に何かをきっかけに(科学的には不明ですが)宇宙の誕生=ビッグバンが起こります。宇宙誕生より約10^-43秒後の状態について説明します。

この10^-43秒後というのは約1プランク時間(5.391x10^-44秒, *6)後の宇宙のことです。この数値は“これ以上分割できない宇宙で最も小さな時間の単位”と考えられており、“なぜこれ以上時間を分割できないか”については過去の記事“時間と空間は量子化できるか?”という記事をおさらいしてみてください(*7)。また、10の何十乗という数に苦手意識がある方は“数の瞑想(*8)”という記事で頭のウォーミングアップをしてみると良いと思います。

本題に戻って、このときの宇宙は爆発的に誕生した直後なので、その温度も10^33K以上と途方もない温度でした。太陽の表面温度が約6000度(6×10^3K)なので太陽の温度の1兆倍×1兆倍×100万倍以上の温度です。

このような高温高圧の状態では物質は図2のような原子構造すら保つことはできません。陽子や中性子も形を保つことができず、さらに細かい素粒子(クォーク)がバラバラの状態で存在しています(図3)。この時の宇宙に存在できたものは単体の素粒子、電子、ニュートリノやそれらの反物質といったものが主体で、これらが衝突してエネルギーとなったり、またはエネルギーから生成されている状態でした。
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しかし、“全ての素粒子と全ての反物質が全く同数”であった場合、全てが対消滅して±0になってしまいますが、“反物質10億個に対して、物質の方が10億+1個と僅かに多かった”ため、現在の物質的宇宙が出来上がったと考えられています。

・宇宙の初期状態(2)10^-35秒後
次にビッグバンから10^-35秒後になると宇宙の温度が少し下がってきて素粒子同士が結びつくことが可能な温度に近づいてきます。ただし、まだ宇宙の密度が高く素粒子同士の距離が近すぎるため、結合してはすぐに分解するという状態が続きます。

図4のように、素粒子同士が一時的に結合して陽子/反陽子/中性子/反中性子といった物質を形成しますが、これらはまたすぐに衝突して光子のエネルギーを放出し消滅します。反対に光子のエネルギーから陽子や反陽子といった物質が生成される反応も生じています。

図4に示す通り、陽子+反陽子←→光子2個の反応で平衡が保たれていますが、ここでも計算上は光子10億個に対して1個の陽子が過剰に生成され、現在の物質宇宙が形成されていると推測されています。
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・宇宙の初期状態(3)10^-5秒後〜1.09秒後
ビッグバンから10^-5秒後〜1.09秒後までの説明に移ります。この時期になると物質と反物質の反応はほぼ終わり、先程説明したように“僅かに超過した物質”が残って物質的宇宙の主体となります。なので反陽子/反中性子/反(陽)電子/反ニュートリノといった反物質はもう残っていません

そして、この時の宇宙の温度は約100億度(K)なので素粒子同士が安定して結合し、陽子や中性子として存在することが可能です。ここまで他の物質と激しく相互作用を繰り返していたニュートリノも温度の低下によって現状のような“殆ど他の物質と相互作用しない”性質へと変化します。
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・宇宙の初期状態(4)3.2分後〜30万年後
ビッグバンから約3.2分後、宇宙の温度がまた少し低下し、バラバラに存在していた陽子や中性子が結合し始めます。図6に示す通り、陽子(p)と中性子(n)が反応して重水素(2H)、三重水素(3H)、ヘリウム原子核(3He/4He)といった原子核が合成され始めます。

この時に存在した陽子と中性子の割合が87:13、これらを材料に安定な水素原子核(p)と安定なヘリウム原子核(2p2n)を合成すると水素原子核:He原子核の割合が74:26となり、現在宇宙に存在する割合とほぼ同程度になります。ただし、この時点では宇宙の温度は数億度〜数万度と高温でまだ原子核と電子は結びついておらず、それぞれがバラバラに飛散している状態=“プラズマ状態”(*9)であり、それが約30万年ほど続いたと考えられています

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・宇宙の初期状態(5)約30万〜38万年後:大きな転機
ここまで宇宙は1万度を超える超高温状態であり、宇宙は図7左のように原子核/電子/光子などがバラバラに存在しているプラズマ状態でした。この状態では光子は自由電子と相互作用を起こしてしまい、まっすぐ飛ぶことができません。光は粒子の中で乱反射して遠くまで到達できない状態であり、蛍光灯や太陽の内部と同じような状態で「光の乱反射によって何も見えない状態」であったと考えられます。つまり、「宇宙全体が太陽のようであり光しかない状態」でした。

しかしこの時期に宇宙に大きな転機が訪れます。宇宙の温度が低下し約3000Kになった頃、もう太陽の表面温度約6000Kよりも十分に低温の状態となりプラズマ状態から「原子核と電子が結合した状態」へと相転移します。図7右に示すようにそれまで飛散していた自由電子が原子核に捕捉され、光子と相互作用しにくくなりより遠くへ光が到達するようになります。

もしその時宇宙を見ることができたならば、「光の乱反射で何も見えない状態」から「原子が安定した状態になり宇宙が晴れ渡って見える状態」へと劇的に変化したと考えられます。この時初めて「光と闇が分離した状態」になったと言えます。このときの状況を宇宙科学の用語では“宇宙の晴れ上がり(clear up of the Universe)*10”と呼んでいます。
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そしてここから原子同士が集まり、宇宙の塵から星が生まれ、恒星が誕生し、銀河が形成され、137億年経った現在の宇宙が形成されたと考えられています(図1)。
・“原初の光”の痕跡
宇宙誕生からしばらくの間は宇宙の中は光で満たされていて影を造り出すような固形の物質は存在しない状態でした。ビッグバンから30〜38万年後に前述のように“宇宙の晴れ上がり”が起こり、ここで初めて光と闇という概念が生じたとも言えます。このとき、全宇宙に行き渡っていた光子は一度に解放され、全方位へ拡散することになります。

そして、この“原初の光”は驚くべきことに約137億年経った現代においても観測することができます。宇宙の膨張とともに光の波長は伸び、当時の3000Kという温度ではなく現在は絶対温度3Kという非常に低い温度で全方位から観測される“宇宙背景放射(Cosmic Microwave Background)*11, *12(図8)”という形で捉えられ、現在でも研究が進んでいます
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・旧約聖書における宇宙の始まり
私自身は宗教家でも何でもありませんが、ユダヤ教の聖典である旧約聖書の「創世記(*13, *14)」の冒頭部に世界創造の描写があるのでそれを以下に引用します。

「1 はじめに神は天と地とを創造された。
In the beginning God created the heavens and the earth.
2 地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。
Now the earth was formless and void, and darkness was over the surface of the deep. And the Spirit of God was hovering over the surface of the waters.
The First Day
3 神は「光あれ」と言われた。すると光があった。
And God said, “Let there be light,” and there was light.
4 神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた
And God saw that the light was good, and He separated the light from the darkness.
5 神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。
God called the light “day,” and the darkness He called “night.”
夕となり、また朝となった。第一日である
And there was evening, and there was morning—the first day.」
創世記 第1章冒頭部 (*13, *14)

この聖書の冒頭部によると第3節に書かれているように「光あれ(FIAT LUX)」と神様が言って光が創られた、となっています。そして第4節にあるように、その後に「光と闇を分けた」という順序になっています。こうして見ると、初めから光があったわけではなく、闇があったわけでもなく、両方同時に存在していたわけでもなかった。何も無いところから「まず光が創られ」、そして「光と闇が分けられた」という順序で光と闇の世界が創られています。

この紀元前から伝わる旧約聖書が作られた時代は科学は全く発達しておらず、「地面は平ら」「太陽が地球の周りを回る」「宇宙は永遠不変」と信じられていた頃です。今は誰も疑わないですが「ビッグバン理論」「宇宙誕生説」というのは実はごく最近の科学によって裏付けられてきた理論です(*15, *2)。科学の歴史を振り返ると、創世記冒頭第3・第4節のたった2行ですが、これまで人類が研究を重ね続けて辿り着いた最新理論とよく整合するのには感銘を受けます。光を創造する前にも記述がありますが、「天と地」とは単純な「空と大地」ではないかもしれません。但しここは科学的検証が不可能な領域、形而上学的な領域かもしれないので今ここでは触れません。
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・宇宙創造の化学錬成(アルケミー)の経緯
「ビッグバン」が起こるための何らかの前段階(科学的に未解明)
→莫大なエネルギーの爆発(ビッグバン)とともに現宇宙の時空そのものを生成
→超高温下で物質と反物質の大量生成と消滅
→わずかな非対称性から物質のみを生成
→宇宙冷却とともに水素・ヘリウム原子核等を合成
→さらに冷却され原子核と電子が結合
→「“原子”の生成」と同時に「光の解放/闇の生成」が成される.

この宇宙が創造される初期の過程を“極めてシンプルに/とても分かりやすく/創造者に無礼なほど単純に”記述すると上のようになると思われます。他の科学者達もそうであると思いますが自然科学を理解すればするほど、万物の存在の仕組み、その緻密さと奥深さに感銘を受けます。人類の知能では何千年もかけてその一部を理解するのがやっと、というところです。もしこの宇宙の理を創った創造主がいるならば人類の知能では到底足元にも及ばない“全てを知り全てに能う”存在に畏敬の念を抱かずにはいられません(絵:ミケランジェロ)。

私も当時はそうでしたが、昔学校で覚えたように「スイ(H)、へー(He)、リー(Li)、べ(Be)、、、」と丸暗記することと、自身の頭で知識と経験を統合し物事の本質を理解するのでは脳の活性化する部位や“感動/気付き/アハ体験(*16)”に必ず違いが出てくるでしょう。“知らないことを理解しようとすること”、“疑問を探求し続けること”、“自発的に興味が湧き考えてしまうこと”、これらも能動瞑想という瞑想法の一種です。学びや瞑想を続けていくことによって、脳/意識/自分の環境に変化を起こしていきましょう。


引用:
*1. Hubble E. A Relation between Distance and Radial Velocity among Extra-Galactic Nebulae, Proceedings of the National Academy of Sciences, vol. 15, no. 3, pp. 168-173, 1929. https://doi.org/10.1073/pnas.15.3.168
https://note.com/newlifemagazine/n/n4985749ff8b6
*3. The Big Bang and expansion of the universe
https://www.jpl.nasa.gov/infographics/the-big-bang-and-expansion-of-the-universe
*4. Jonathan Allday, "Quarks, Leptons and the Big Bang" Second Ed., The King’s School, Canterbury, Institute of Physics Publishing Bristol and Philadelphia, 2002
*5. 素粒子−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/素粒子
*6. プランク時間−Wikpiedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/プランク時間
https://note.com/newlifemagazine/n/ndab571fd44c3
https://note.com/newlifemagazine/n/n0671628d60c7
*9. プラズマ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/プラズマ
*10. 宇宙の晴れ上がり– Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/宇宙の晴れ上がり
*11. Planck and the cosmic microwave background. The European Space Agency.
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Planck/Planck_and_the_cosmic_microwave_background
*12. 宇宙マイクロ波背景放射–Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/宇宙マイクロ波背景放射
*13. 創世記 第1章
https://www.wordproject.org/bibles/jp/01/1.htm
*14. Bible-Genesis 1
https://biblehub.com/genesis/1.htm
*15. ビッグバン–Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ビッグバン
*16. アハ体験– Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/アハ体験

画像引用: 
https://www.pngwing.com
https://pt.wikipedia.org/wiki/Ficheiro:Water_molecule_3D.svg
https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Blausen_0615_Lithium_Atom.png
https://en.wikipedia.org/wiki/Quark

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No.029 宇宙瞑想:“宇宙の果て”について考える

今回も、非常に些細な日頃の雑念を捨て去り、広大で我々の理解を遥かに超える宇宙の神秘に想いを巡らせる「宇宙瞑想」をやっていきましょう。前回のテーマで「宇宙は膨張し続けている」、「宇宙には始まりがあり、有限の空間である」ということが分かりました(*1, *2)。

有限ならば「宇宙の端、辺縁はどうなっているのだろうか」という疑問を持つ人も多いと思います。少年少女の頃誰もが一度は考えたことがあると思いますが、大人になるにつれ日常の雑念の中に埋もれていってしまいます。これについて考えてみます。

・“宇宙の果て”はどうなっているでしょう?
もし我々が超高度の文明を持っていて光の速度を超えて宇宙の果てに到達できるとしたら、宇宙の果てはどうなっているでしょう?
以下に候補として3つのパターンを挙げてみます(図1)。

A.時空が途絶えている(これ以上先に進めない)

B.別の宇宙へとつながっている

C.宇宙の反対側から出てくる

読者の皆さんも自分なりの答えを予想してみてください。
では答えに行く前に2次元空間で考えてみましょう。

20230101瞑想コラム29Fig01

・2次元空間での空間の広がり
図2に示すように2次元の世界は前後左右(XY軸)が存在しますが上下(Z軸)の概念が存在しません。図2を見ての通り、この空間は各方向へ無限に広がっているように見えます。ではこのような空間は「無限」に広がっているのでしょうか、それとも「有限」であることも考えられるのでしょうか?もしこの空間の前の方へ延々と進んでいったらどうなるのでしょうか?

20230101瞑想コラム29Fig02
・身近な擬似的2次元空間
ここで図2の2次元空間を改めて見るととても見覚えのある光景に見えます。図3の左側に示されるように、我々が普段よく見る光景は2次元空間のような広がりを持ちますし、我々が普段使う地図も2次元表示です(図3右)。つまり、地球規模のマクロな視点から見ると高層ビルも地下街も誤差レベルの微々たるものですので我々はほぼ地球の表面でしか生活していない、つまり「地球の表面は擬似的な2次元空間世界」と言えます。


20230101瞑想コラム29Fig03

・地球表面を2次元空間と考える
では地球表面を擬似的な2次元空間と考えると、一見地面は地平線が見えるほど遥か遠くに続いていますし、海も水平線が見えるほど果てしなく遠くまで続いています。ただし、これが無限に続いているかというとそうではありません。もしジェット機でどんどん先へと進んでいくとどうなるかというと、現代人は誰もが知っていることですが自分が出発した地点と反対方向から戻ってくることになります(図4右)。

 そしてこの地球表面の2次元空間は「有限」な空間ですが「果て(辺縁)」は存在しませんどこまでも進み続けることができますが、同じところをループし続けて辺縁に辿り着くことはありません。図4左はこの2次元世界を展開した地図ですが黄色矢印と青色矢印は2次元空間的には離れていますが実際は継ぎ目もなく連続していることが分かると思います。

20230101瞑想コラム29Fig04
・2次元の人間は球面を知覚できるか?
私達は元々3次元の世界の住人なので球面が湾曲していたり、平らに見える地面も実際は地球という球体であることを知っています。それでは仮に2次元世界に住人がいた場合、「立体」や「3次元」という概念のない彼らに「平面が曲がっていること」「球体の表面であること」を知覚したり理解することが可能なのでしょうか?

2次元世界からすると曲げたり歪んだりしても3次元的な概念を持たない彼らにはそれを知覚する術が無いように思われます。しかし2次元世界にいながら3次元的な変形を把握する方法も実はあります。例えばその一つは「3角形の内角の和」でも表されます。

誰もが「3角形の内角の和=180°」だと思っていて「それ以外にあるのか?」と思う人もいるかもしれません。しかしながらそれは「まったく歪みのない完全な平面」でのみ成り立つ法則です。

平面の曲率には「+」「−」「±0」の3パターンあり、曲率によって三角形の内角の和が180°よりも大きくなったり小さくなったりします(図5、*3)。例えば、“日本と北極点とエジプト”の3点を最短距離で結んだ3角形の内角の和はどうなるかというと図5Aのように180°より大きくなります。なので、もし3次元を知覚できない2次元の住人がいたとしても広大な規模で角度を検出することで「自身が存在する2次元空間が平坦か曲がっているか」を知ることが可能です。

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・3次元的な空間がループする場合どのような構造になるか
図4の左の平面地図の端と端を合わせると図4右のような球体の地球になります。それと同じように、今度は3次元空間の端と端をつなげるように想像してみましょう。図6にそのイメージを載せていますが、まず我々の存在する空間の端と端(図6AとA')を合わせると円筒状になります。そして同様に開いた端と端(図6BとB')を合わせるとドーナツ状の構造体になります(図6右下)。この構造が「トーラス(*4)」と呼ばれる構造です。基本図形を一枚の平面のように表していますが、実際は3次元空間を表しています。そしてトーラス構造(図6右下)は3次元より高次元から見た構造と考えられています。

20230101瞑想コラム29Fig06


・3次元世界から高次元の構造を観測するには
3次元を直接知覚できない2次元世界から時空の歪みを検知するには3角形の内角の和を計測してみるというのが2次平面の曲率を求める一つの方法でした。では3次元空間の曲率を知るための方法としては、その一つに「宇宙背景放射(CMB, *5)」という宇宙の原初の光を調べる方法があります。

これは探査人工衛星COBE(1989-)、WMAP(2001-)、Planck(2009-)といった衛星で宇宙のごく初期の光を全方向から計測し、これを基に宇宙のさまざまな情報を解析するという手法になります。

20230101瞑想コラム29Fig07
この宇宙背景放射の“2点相関関数”を解析すると、この宇宙は「ほぼ平坦な(曲率の少ない)トーラス構造」つまり、対極にある時空の端がつながっている構造である可能性が高いことが最近の研究で示されています。さらにそのトーラス(繰り返し構造の基本単位)の大きさは観測可能な宇宙サイズ(光速×ハッブル時間=約138億光年)の3〜4倍程度(400〜500億光年)である可能性が高いとされています(*6)。

・宇宙は「トーラス」構造
我々は生活範囲において地面はどこまでいっても平坦な構造と感じています。ただし、マクロな視点で見ると正の曲率をもった有限の球面であり、進み続けるといずれは元の場所へと戻ってきます。つまり地球で考えると「有限ではあるが地面や海面が途絶えたりはしていない」、「どこまでも無限に進める(周回できる)が、他の惑星に辿り着くことはない」、そして「ある方向に進み続けると反対側から現れる」という空間に我々は存在しています。図8上のように、平面ではあるが端がつながっていて終わりのない面を形成しています。

宇宙も同じような構造と考えられていて「対極の時空がつながっている」、図8下のように我々が知覚する宇宙は3次元空間であるが、より高い次元で宇宙を見ると図8右下のようにドーナツのようなトーラス構造をとっている可能性が高いようです。

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・最初の問題の答えとは
最終的に最初の問いの答えとしては、“宇宙の果て”は「急に時空が途絶えてしまうわけではなく」、「別の宇宙へとつながっているわけでもなく」、「いずれは反対側から元の場所へ戻ってくる」、つまり現代の宇宙論から推察すると図1の中では「C」が最も現実的と考えられます。予想通りだったでしょうか、それとも意外な答えだったでしょうか?

・次元を認識し知覚するには
我々は肉体を持ち、3次元の宇宙の中で生活しています。我々の身体は細胞、タンパク質、アミノ酸、分子、元素、素粒子、いずれのレベルにおいても「物質」で構成されており、3次元の物理法則に支配されている「肉体」は別の次元へ移動することはできません。ただし、我々が保持しているものの中で「物質」ではないものがあります。これまでの記事を読んでいる読者の方々ならもう気付いていると思いますが、そうです、我々の「意識」です。意識は形を持たず物質的な側面を持ちません。つまり、次元の壁を越えられるツールの一つなのです。

ただし、会社勤めや知人との雑談、家庭の雑事といった日常生活において「次元」を意識することは“絶対に”ありません。「次元」を知覚し認識するための方法が「瞑想」です他の次元を知覚するには「この3次元の現実世界からのあらゆる刺激を遮断する」必要があります。少しでも3次元現実世界のことを考えた瞬間にあなたの意識は「いつもの日常の意識」に引き戻されるでしょう。

そうならないためにはある程度の鍛錬が必要です。意識も使い方次第では「日々の雑事の心配とストレスを生み出すだけのツール」にもなれば「次元や宇宙を超越できるツール」に鍛え上げることも可能です。そして「瞑想」が意識の変容だけでなく身体にも良い効果をもたらすことは過去の記事でも取り上げている通りです(*7)。
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・次元を超えた世界の学問=形而上学
今科学は観測できる範囲を超え、その先にあるものを推測し解析する段階になっています。しかしそれは最近に始まったことではなくアインシュタインの時代には既に「まだ科学的に発見されてないものを提唱する」ということは行われていました。科学では扱えない“形のない、常識的に捉えられないもの”の学問として「形而上学(けいじじょうがく)」があります。そしてこの3次元を超えた4次元以上の概念も「形而上学」では何世紀も前から伝えられていることであり、アインシュタインも形而上学に精通していたと言い伝えられています。「形而上学」は自然科学を超えた真の世界を理解する一助となり、「瞑想」は3次元にいながら4次元以上の高次元を知覚する良い方法となるでしょう。ぜひ日々の瞑想習慣を取り入れていきましょう。

引用:
*1. Hubble E. A Relation between Distance and Radial Velocity among Extra-Galactic Nebulae, Proceedings of the National Academy of Sciences, vol. 15, no. 3, pp. 168-173, 1929. https://doi.org/10.1073/pnas.15.3.168
https://note.com/newlifemagazine/n/n4985749ff8b6
*3. Cosmic Topology
http://www.scholarpedia.org/article/Cosmic_Topology
*4. トーラス−Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/トーラス
*5. 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/宇宙マイクロ波背景放射
*6. Aurich R, Buchert T et al, The variance of the CMB temperature gradient: a new signature of a multiply connected Universe, arXiv:2106.13205 [astro-ph.CO], 24 Jun 2021, https://doi.org/10.48550/arXiv.2106. 13205
https://note.com/newlifemagazine/m/mb580e4b26aa4

画像引用: 
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No.028 宇宙瞑想:“宇宙は永遠か?”について考える

宇宙は我々にとって絶対的な空間です。その存在は疑う余地もなく、無限とも思える広さを持っています。では宇宙は“永遠に変わらない普遍的なもの”なのか、それとも“大きくなるのか小さくなるのか”、”出現したり消滅したりするのか”、これらについて科学的、形而上学的に考えてみたいと思います。

既にご存知の方もいるかもしれませんが、調べればすぐに“宇宙の年齢は〇〇◯億年”、だとか“宇宙の誕生はビッグ・〇〇”という情報も出てくると思います。一旦これらを忘れ、これらがどのように導かれるのか一緒に考え、他の一切の日常を忘れて宇宙のことのみを考える「宇宙瞑想をやっていきましょう。
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「宇宙は変化し続けているのか?それとも永久不変なのか?」

・初めに星との距離を調べてみる
まずは宇宙を調査してみようと天文学者は考えますが、我々人類は地球から外には行けません。太陽系内の惑星にすら行くことが出来ないレベルの科学技術なので宇宙の情報を得るには“観測する”以外に方法はありません。最も分かりやすい観測方法は天体望遠鏡で星を見ることです。やはり目に入るのは夜空で輝く星、太陽のように光を放つ“恒星”です。これらは我々の生きている期間で見ると、季節によって常に決まった方角に現れ、その位置も輝く強さも不変であるように見えます。このような星々との距離や位置関係が分かれば宇宙のことが少しでも理解できると天文学者たちは考えました。

星の光を観測すると、近い星ほど光が強く明るく見え、反対に遠い星は光が弱く暗く見えます。ただし、星の本来の大きさや明るさはそれぞれ異なるので、明るさが同じに見える星でも“近くにある小さく暗い星”なのか、“遥か遠くにある巨大で明るい星”なのか、“光の強さだけでは距離を計測できない”という問題点があります。この問題をどのように解決したのでしょうか。

・足掛かりとなる“セファイド変光星”
ここで宇宙には面白い性質を持つ星の存在が確認されていました。セファイド(ケフェイド)変光星と呼ばれるタイプの星で、一定の周期で明るさが変わることが知られています(図2、*1, *2, *3)。明るさが変わる理由は星全体が膨張と収縮を繰り返す振動運動のためと言われています(*4)。そして、その“変光周期”と“絶対等級”をグラフにプロットすると図2Bの様に同じタイプの恒星では一定の相関関係があることが明らかになりました。これによって“その星の真の明るさ(絶対等級)”が求められます
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・真の明るさ(絶対等級)から分かること
その星の“真の明るさ(絶対等級)”が分かれば、地球から観測できる明るさ(見かけ上の等級)でどれほど離れた星なのかが分かります。図3に示されるように各々の恒星は地球で観測される“見かけ上の等級”がありますが、変光星では“真の等級”を求めることでその星との距離をある程度正確に求めることが可能となります(*5, *6)。
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・様々な星や銀河の距離を調べて分かった法則
上に書いた通り、“変光星の周期”や“その星の地球から見た明るさ”が分かれば距離が分かります。それによって次のことが分かってきました。

・ほぼ全ての天体は静止しているのではなく、地球から遠ざかって動いていた
・地球から遠くにある天体ほど、速い速度で地球から遠ざかっていた

というような、当時としては予想外な現象が発見されました。これは図4のグラフを見ると分かりやすいですが、地球からの距離(横軸)が大きな星ほど、遠ざかるスピード(縦軸)が大きいことが分かります(*7)。この法則はハッブル(=ルメートル)の法則(*8)と呼ばれていますが、恐らく誰でも一度は聞いたことがある有名な「ハッブル宇宙望遠鏡」のハッブル氏です(*9)。

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・全ての天体が地球から遠ざかっている?
宇宙の星々は広い宇宙の中にある程度均一に散らばっているはずです。それぞれが独自の方向に運動していることは考えられますが、“全てが一点から遠ざかっている”ことはあり得るのでしょうか。例えば、「大きな湖の中の数千匹の魚を観察したら全ての魚が一点から遠ざかる方向へ泳いでいた」と同じような現象と考えられますが、偶然でこのような現象が起こるとは考えにくいです。

これらを説明する説として考えられたのが「宇宙空間そのものが膨張・拡大している」のではないか、というモデルです(図5)。確かに“空間そのものが膨張している”ならこれらの現象も説明が可能です。また、「遠く離れた天体ほど速い速度で遠ざかっている」という現象も「宇宙空間自体の膨張」を裏付けています
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・膨張する宇宙から導かれたハッブル定数
図4のように遠く離れた天体(銀河や恒星)の“距離(D)”と“遠ざかる速さ(v)”の関係はほぼ一定の比例関係であり、以下の式1で表されます。

   v = H(0)D ・・・(式1)

H(0)はハッブル定数(*8)と呼ばれるものでその単位はkm/s/Mpc(キロメートル/秒/メガパーセク、1Mpc=約326万光年)です。このハッブル定数はまだ完全ではなく、宇宙の観測精度が上がるにつれて年々少しずつ変わっていますが、最近の2017年の発表では“70.0(km/s/Mpc, *10)"という値が得られています。これは「地球から1メガパーセク(約326万光年)離れた天体は70km/秒のスピードで遠ざかっている」ことを意味しています。このハッブル定数はまた後ほど使用します。


・“宇宙が膨張する速度”が分かると何が求められるか
このハッブル氏が分析した“宇宙空間自体が膨張している”という事象から推測できることは、逆に考えると“離散する銀河や恒星は過去に遡るとお互いに近付いていく”ことを示しています。そして、図6に示すように“全ての天体は時間的空間的にある一点に収束する”ということが推測できます。

“地球とある天体の距離”と“離れる速度”が分かっていて、“元々は同じある一点から発生した”と考えられています。そうすると“宇宙が始まった瞬間”、“全宇宙の全てのものが凝集していた特異点”までの時間が計算できます。先程の式1は以下の通りです。
   v = H(0)D ・・・(v=“速度”、D=“距離”)

そして誰もが知っている公式を以下に示します。
  “速度”=“距離”÷“時間”
この関係から、
  “時間”=1/H(0)
つまりハッブル定数の逆数が“宇宙の始まりの特異点から現在までの時間”であることが分かります。

20221202Fig6_convert_20230513230426.jpg

・ハッブル定数の逆数“1/H(0)”を計算してみる
ハッブル定数の単位のMpc:メガパーセクをkmに直して分子分母から外します。スマホやPCでもできるので時間のある人は計算してみてください。

H(0) = 70.0 (km/s)/Mpc [1Mpc=326万光年、1光年=約9兆5000億km]
=70 / (326,0000×9,5000,0000,0000) = 1/(4424×10^14) (/s)

求めたH(0)の逆数を導きます。

1/H(0) = 4424×10^14 秒[1年=60秒×60分×24時間×365.25日=31557600秒]
=140.188×10^8 年=約140億年

するとこのように約140億年という時間が現れました。実際には宇宙の加速膨張(*11)という概念があり、最近(2013年)の解析では宇宙年齢は約138億年とされています(*12)。


・宇宙は「永遠」ではなかった
タイトルに戻りますが、我々人類にとっては宇宙は常に“不変”であり“永遠不滅の時空”であるように考えられていました。但し実際には、“常に変化し続け”ていて、“ある瞬間から始まった”ということが分かってきました。“永遠”とは“始まりも終わりも無い”、“時間という概念さえ無い”、“生まれることがなく滅びることもない”絶対的な存在のものと言えます。

そうなると「宇宙は永遠か、永遠ではないのか」という問いに対しては「宇宙は始まりがあった=永遠ではなかった」と言えそうです。そして「宇宙は無限か有限か?」という問いには「宇宙の果てまで行かないと分からない」とも言えますが、これまでの理論からすると「宇宙は有限の空間である」ということが言えそうです。ということは更なる疑問が出てきます。


・「宇宙が始まる前は“何”があったのか?」
これは残念ながら“科学”では解明できません。何故なら、現代科学は“光”、“時間”、“距離”、“質量”といった「測定可能なもの」しか扱えないという根本的な“限界”があるからです。膨張する宇宙の外部の領域には恐らく “物質”も“空間”も“時間”も“無い”、“真空すらも無い”ということが言えます。

これらの科学で扱えない領域”には別の学問が必要です。それは“形而上学(けいじじょうがく)”という形の無い領域を扱う学問になります。“科学を究める”ほど“科学的でない領域の存在が確定的になる”ということは興味深いパラドックスです。但し形而上学から見ると至極当然のことかもしれません。

20221202Fig7_convert_20230513230451.jpg
形而上学というと科学よりも難解で日常生活では触れる機会が無さそうに考えがちですが、形而上学的なツールは実は我々に最も身近なところに存在しますその一つは“我々の意識”です。

「我々は科学的なものしか認知していない」と思いがちですが「あなたの意識を科学的に計測できますか?」と聞かれてその方法や単位を答えれるでしょうか。また“意識”が科学的物質世界に影響を与えることも証明されてきています(*13, *14)。そのツールを磨き、感度を上げ、強度を高める方法が「瞑想です。

“宇宙を超える領域”へ想いを巡らす偉大な科学者達の探究心や想像力も「瞑想」と同じ脳の使い方だったのかもしれません。“科学を知る”ことを通じて“科学的ではないものを認識する”、これも瞑想法の一つです。日々の瞑想で脳と意識を活性化していきましょう。


引用:
*1. Barry F. Madore and Wendy L. Freedman. The Cepheid Distance Scale. 1991 PASP 103 933. DOI 10.1086/132911
*2. 国立科学博物館HP. https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/ space/galaxy/galaxy05.html
*3. ケフェイド変光星−Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ケフェイド変光星
*4. セファイド−天文学辞典 https://astro-dic.jp/cepheid/
*5. ESA- The European Space Agency. https://sci.esa.int/s/8ZkRKOA
*6. パーセク- Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/パーセク
*7. Hubble E. A Relation between Distance and Radial Velocity among Extra-Galactic Nebulae, Proceedings of the National Academy of Sciences, vol. 15, no. 3, pp. 168-173, 1929. https://doi.org/10.1073/pnas.15.3.168
*8. ハッブル=ルメートルの法則−Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/ハッブル%3Dルメートルの法則
*9. ハッブル宇宙望遠鏡−Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/ハッブル宇宙望遠鏡
*10. The LIGO Scientific Collaboration et al. “A gravitational-wave standard siren measurement of the Hubble constant” (英語). Nature volume 551, pages 85–88 (2017) https://www.nature.com/articles/nature24471
*11. Garnavich PM, et al. "Constraints on cosmological models from Hubble Space Telescope observations of high-z supernovae" Astrophysical Journal 493 (2): L53+ Part 2 Feb. 1 1998
*12. PAR Ade et al. Planck 2013 results. I. Overview of products and scientific results. arXiv:1303.5062 [astro-ph.CO], https://doi.org/10.48550/arXiv.1303.5062
https://note.com/newlifemagazine/n/n19342d9a4f56?magazine_key=mb580e4b26aa4
https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a?magazine_key=mb580e4b26aa4

画像引用 
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https://sci.esa.int/s/8ZkRKOA
https://en.wikipedia.org/wiki/Galaxy#/media/File:Probing_the_distant_past_SDSS_J1152+3313.tif
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No.027 時間と空間は「量子化」できるか

これまでのテーマで」の最小単位である「子」といった物質(または非物質)の最小単位「量子」について扱ってきました(*1, *2)。今回は空間」や「時間」が量子化できるのか、ということについて考えていきます。以前もお話ししたように瞑想とは「無心になること」「想いを巡らすこと」でもありますが、同時に「自己を知ること」「外界のあらゆる事象は自己に内在していることを知ること」でもあります。

そしてどの瞑想法も突き詰めていくと「自己と宇宙が同一であることを知ること」「万物の理(ことわり)は自身が知っていること」という領域へと昇華していき、「瞑想」イコールこれらを認知していく「学び」でもあります。今回も「宇宙の真理」の一部を学んでいきます。私も量子物理学の素人なので素人目線で説明していきます。


まず時間」や「空間」はいくらでも分割できるのではないか、無限に小さく出来るのではないか、と思う人も多いと思います。しかし「水」に関して言うと、日常生活レベルでは形を持たない液体なので無限に分割できそうですが、実際には「水分子」の集合であるので最終的に「1個の水分子」以下には分割できなくなります。そして物質として捕らえられない「」でさえも「量子」として最小単位が存在することが証明されてきました(*1)。「時間」や「空間」はどうなるのか楽しみでもあります。
20221101Fig01water.jpg
まずは時間空間の最小単位を知るために必要な3つの定数を揃えていきます。

①万有引力定数「G」
これはニュートンの古典物理学から知られている定数で、その大きさと単位は次のように表されます。

G= 6.6743×10^-11 (単位:m^3・kg^-1・s^-2)
[m: メートル、kg: キログラム、s: 秒]

これは“質量を持つ物質には必ず重力が発生する”ことを意味し、二つの物体(質量m1[kg]、m2[kg])がある距離(r[メートル])で存在するときその二つの物体の間には次の式のような引力Fが働きます(図2)
F=(G×m1×m2)/r^2 [単位:kg・m・s^-2] ・・・式1

我々は普段地球の重力しか感じていませんが、厳密には全ての物体同士の間には引力が働いています。例えば、体重50kgの人二人が1m離れて立っていたとすると、
F= G×50×50/1^2 = 1.7×10^-7[kg・m/s^2] = 0.17 [mg・m/s^2]
であり、地球の重力で0.17ミリグラムの重さほどの引力が働いています。0.17ミリグラムというと水滴4滴ほどで「1m離れた50kgの人からは水滴4滴分ほどの引力を受けている」と言うと近いかもしれません。

20221101Fig02G.jpg

の速さ「c」
次に物理学でよく出てくる定数であるの速さを挙げます。光の速さはよく「1秒間に地球7周半」と表現されていますが正確には次のように表されます(*4)。

c = 299,792,458 [m/s] ≒ 3.0×10^8 [m/s]

約30万km/sで地球の赤道一周が約4万kmですから地球7周半の距離を1秒で進む速さと言うことで合っています。ちなみに太陽から発せられた光が地球に届くまで約8分19秒かかります(図3)。古典物理学では光の速度は無視できるほどに大きな値だったのですが、特殊相対性理論や一般相対性理論(*5)においては無視できない要素となり、以降の物理学では普遍的な定数として用いられています。
20221101Fig03light.jpg

③プランク定数「h」
次が聞き慣れないかもしれませんがプランク定数と呼ばれる定数があります。“光子が持つエネルギーはその振動数に比例する”という物理法則があります(*6)。これを数式にすると次のように表されます。

E = hν
[E : 光のエネルギー、h : プランク定数、ν(ニュー): 光の振動数]
プランク定数 h = 6.626×10-34 [単位:J・s 、ジュール秒]
となります。

例えば、紫外線領域(例:波長200nm[ナノメートル=10^-9m])の光量子の周波数ν1は
周波数ν1 =光速÷波長=3.0×10^8 / 200×10^-9 = 1.5×10^17
よって、光量子のエネルギーε1は
ε1 = hν1= 6.626×10^-34 × 1.5×10^17 = 9.9×10^-17 [J: ジュール]
と計算されます。

20221101Fig04h.jpg

これで、「時空の最小単位」を導くための3つの定数は揃いました

・2つの物体が近づける距離の限界
ここでもう一度、「万有引力の法則(式1、図2)」を見てみると
F=(G×m1×m2)/r^2 [単位:kg・m/s^2]
引力=[重力定数×質量1×質量2]/[距離の2乗]
となっています。これは「引力は距離の2乗に反比例する」ということを表しているので、つまり「2つの質量の距離がゼロに近づくと引力は無限に大きくなる」ことを意味しています。もしそうなってしまうと「一度近づいたら離れられない」ようになってしまいます。

「互いの引力が強すぎて離れられない状態」はどんな状態かと言うと、「ブラックホール」と同じ状態です。「互いの質量から生じる引力から脱出できない距離」以内に近付くとブラックホールが出来てしまいます

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・「ブラックホール化してしまう距離」とは
この距離はあるドイツの天文学者が「一定の質量の星がブラックホールになるときの星の半径」という観点で導き出されました。地球程度の惑星では問題にはなりませんが、太陽の何百倍もの星になるとその中心部の重力も超強大になり、原子もその重力に耐えられなくなります。一度原子の崩壊が起こると、質量は変わらず原子同士の距離は縮んでいくため連鎖反応で一気に星の体積は収縮します。このとき超新星爆発を起こしてブラックホールが誕生すると考えられています。

このとき、「その球体がブラックホール化する限界の半径」は提唱者の名をとって「シュワルツシルト(Schwarzschild)半径(*7、図6)」と呼ばれています。
20221101Fig06BH.jpg
このシュワルツシルト半径(rg)は次の式で表されます。
rg = 2GM /c^2
[G: 万有引力定数、M: 質量、c : 光速]
もう既に定数G/光速cについては解説済みなのでMに太陽の質量1.99×10^30kgを当てはめると「太陽のシュワルツシルト半径は約3km」と計算できると思います。ちなみに「地球のシュワルツシルト半径は約9mm」とされていて、「地球を半径9ミリのサイズに圧縮するとブラックホール化する」ということです。

・最小のシュワルツシルト半径を求める
ここからは数式の表記が記述しにくくなるため、図7に計算過程を示します。
魔法の呪文のような文字数列を書き連ねていきますが、ここまで読んだ人なら理解できると思いますので図7の最後まで読んでみてください。
図7を要約すると、ある質量から導かれるシュワルツシルト半径(*7)とコンプトン波長(*8)の関係から理論上最小となるシュワルツシルト半径を導いています。「E=mc^2: すべての物質=エネルギーである(形のあるものと形のないものは等価である)」「全ては波動"Vibration"であり、万物は振動している」という法則に基づいています。そうなると「振動できないものは存在できない」という観点から限界点が推測できます

ここで最後に導かれた質量Mは理論上ブラックホールを発生させられる最小の質量でプランク質量(*10)と呼ばれています。

20221101Fig07calc2.jpg
・理論上の「距離の最小単位」「時間の最小単位」を求める
書いている自分でも頭がパンクしそうですがもう少しでゴールなので頑張りましょう。
先程の図7で最小のシュワルツシルト半径とプランク質量が求められました。この最小のシュワルツシルト半径の半分が長さの最小単位(lp)とされていて、この長さは「プランク長(*9)」と呼ばれています

また、この最小単位「プランク長」が与えられたとき、この長さを最速で移動する時間が最短時間(tp)となり、その時間「プランク時間」は「プランク長÷光速(c)」で求めることができます

20221101Fig08calc.jpg
最終的にプランク長やプランク時間を既知の定数(万有引力定数G、光速c、プランク定数h)で表すことができれば実際の数値を計算することができます(図8)。

こうして求められたプランク長は 1.616×10^-35メートルです。目安として原子核の周りにある電子の大きさ(*11)が2.8×10^-15メートルなので、その10の20乗分の1(1兆分の1の1億分の1)なので想像を超えた極小サイズです。

また、最小単位となるプランク時間は5.391×10^-44秒という、とてつもなく微小な時間です。そしてこのプランク長(10^-35m)程度が「超ひも理論(*12)」の「ひも」の長さと考えられています。少し賢くなった気がしますね。


しかし、「時間」も「空間」もこれ以上分割できない最小単位が存在することが分かりました。時間も空間もこれ以上分割できない「量子化」ができるということは「この世界のあらゆる事象はデジタル化できる」という可能性が出てきます。

逆に言うと「既に想像をはるかに超える精細さでデジタル化されている世界を我々が認識できるようになってきた」のかもしれません。非常にリアルなコンピュータグラフィックスで作られた世界も実際は「0」と「1」だけのデジタルデータで作られています(画像引用:「アバター/2009年」)。映画やゲームでは現実と見間違えるほどのリアルな世界が再現されていますがこれらも全て「0」と「1」だけで表すことが可能です。もし「0」と「1」よりも多くの要素を使って表現する技術を持っているならさらに緻密で膨大な情報をもつ世界を表現できるかもしれません。


ちなみに前回の「数(*13)」のテーマの観点から「プランク時間毎にカウントするタイマー」があったとすると、1秒間に約1.9×10^43乗カウント、宇宙誕生から約130億年=約4.1×10^17乗秒なので現在まで約7.6×10^60乗=7.6那由多(なゆた)カウントくらいで、最小時間単位でも無量大数(10の68乗)には届きませんでした。今回は時間と空間の「最小」「量子」を扱いましたが、次回もまた「極小」「極大」に関するテーマで脳を活性化していきたいと思います。


引用:
https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a?magazine_key=mb580e4b26aa4
https://note.com/newlifemagazine/n/nf66f91110a61?magazine_key=mb580e4b26aa4
*3. https://ja.wikipedia.org/wiki/万有引力定数
*4. https://ja.wikipedia.org/wiki/光速
*5. https://ja.wikipedia.org/wiki/相対性理論
*6. https://ja.wikipedia.org/wiki/光エネルギー
*7. https://ja.wikipedia.org/wiki/シュワルツシルト半径
*8. https://ja.wikipedia.org/wiki/コンプトン波長
*9. https://ja.wikipedia.org/wiki/プランク長
*10. https://ja.wikipedia.org/wiki/プランク質量
*11. https://ja.wikipedia.org/wiki/電子
*12. https://ja.wikipedia.org/wiki/超弦理論
https://note.com/newlifemagazine/n/n0671628d60c7

画像引用 
https://unsplash.com/ja/写真/T8-kfC8W4b8
https://wallpaperaccess.com/earth-and-sun#google_vignette
http://creativity103.com/collections/Lightwaves/slides/light_trails.html
https://www.news.ucsb.edu/2020/019817/hunt-gravitons Photo Credit: R. HURT - CALTECH / JPL
https://pixabay.com/illustrations/blackhole-black-hole-wormhole-worm-6274733/
https://www.youtube.com/watch?v=5PSNL1qE6VY

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No.026 「数」の瞑想

今回は前回までの量子力学のテーマから少し変わって「」を扱います。も日常の領域を超えてスケールの大きなを想像することで、宇宙や銀河を想像する瞑想と同様に「脳のキャパシティを広げる」効果があります。「字が苦手」「自分は文系」と思っている人にとっては大変かもしれませんが、「普段使うのを避けている脳の領域を活性化する」という効果があるので最後まで読んでみると良いと思います。

皆さんが普段扱う「」はどのくらいでしょうか。例えば、整理券の番号は30くらい、電車代は300円くらい、1日歩く歩が1万歩くらい、新車を買ったら数百万円くらい、世界人口がもうすぐ80億人、近年のハードディスクのメモリは数テラ(数兆)バイト、というところが一般的に日常で触れる数でしょうか。 
FigNumbers1_convert_20230509114346.jpg
我々が知っている、あるいは一度くらいは聞いたことがある範囲で大きな数の単位は次のようなものが挙げられます:
一(10^0:10の0乗)、十(10^1乗)、百(10^2乗)、千(10^3)、万(10^4)、億(10^8)、兆(10^12)、京(10^16)、垓:がい(10^20)、秭:じょ(10^24)、穣:じょう(10^28)、溝:こう(10^32)、澗:かん(10^36)、正:せい(10^40)、載:さい(10^44)、極:ごく(10^48)、恒河沙:ごうがしゃ(10^52)、阿僧祇:あそうぎ(10^56)、那由他:なゆた(10^60)、不可思議:ふかしぎ(10^64)、無量大数:むりょうたいすう(10^68)


我々が一番大きな数は?と聞かれてとりあえず挙げる単位は「無量大数(10^68=10の68乗)」ですが、無量大数がどのくらいの大きさなのか想像できるでしょうか。地球に無量大数という数は存在するのでしょうか?さらに巨大な太陽やより大きな恒星に無量大数を超えるものは存在するのでしょうか。今回はそのような疑問を追求しながら途方もなく大きな「数」について考えていこうと思います。


まずは中学高校レベルの理科を思い出しながら復習していきます。
・1cm3(1立方センチメートル=1ml)の水に水分子はいくつ含まれるのか
水の分子量=18 なので1モル(mol, *1)の水は18g(グラム)、
1モル(mol) = 6.02×10^23 個の分子を含みます。hydrogen-molecule_convert_20230509114717.jpg

よって、1gの水は6.02×10^23÷18 = 3.34×10^22個の水分子から成ります。
1gの水には水分子が約334垓:がい(10^20)個含まれていると言えます。この「垓:がい(10^20)」という単位も既に日常レベルを超えていますが、まだ全然無量大数には届かないですね。
isometric-water-cube-3D-cross-section-PNG-stock-photo.png
では次に地球の大きさや体積を考えてみましょう。
地球は何立方センチメートルでしょうか?地球の半径は約6400km(*2)です。
6400km=6400×1000m=6400×1000×100cm=6.4x10^8 cm
球体の体積は4/3 ×π(3.14)×(半径)^3 なので、
地球の体積(単純計算)は4/3 ×π×(6.4x10^8)^3 =1.1×10^27 (cm^3)となります。
つまり地球の体積は約1.1×10^27 cm3、約1100秭:じょ(10^24)立方センチメートルということになります。まだ全然無量大数には届かないですね。


では「仮に地球が全て水だとしたら構成する分子の数は何個になるか?」
1g(1 cm3)の水は3.34×10^22個の水分子から成り、
地球の体積は約1.1×10^27 cm3なので、
地球の分子の数は3.67×10^49個=36.7極:ごく(10^48)個と概算されます。
極:ごく(10^48)の単位まで来ましたがまだまだ無量大数(10^68)には届きません。

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太陽にはいくつ原子が含まれるか?
まず太陽の基本データは以下のように知られています。
・太陽の半径は約70万km、地球の半径の109倍、体積は地球の約130万倍(*3)。
太陽の質量は約2.0×10^30kg、大部分が水素(*3, *4)。
水素の分子量は1なので、1g(グラム)の水素には6.02×10^23 個の水素原子が含まれます。
太陽の質量は2.0×10^30kg=2.0×10^33g(グラム)
よって単純計算すると“太陽を構成する水素原子の数”=2.0×10^33g×6.02×10^23 個=約1.2×10^57 個となります。
約12阿僧祇:あそうぎ(1056)という数になります。少しずつ近づいてはきていますが、「地球の130万倍もの体積の太陽を構成する水素原子の数」でもまだ無量大数には届きません。
14049_10.jpg

次に思考をより拡大して銀河レベルで考えてみます。
我々の地球や太陽系が所属する銀河(*5)は「天の川銀河」とも呼ばれています。我々がその一部なので銀河全体を見ることはできませんが、我々の地球から銀河の中心方向を見た時に、その星々が密集して帯のように見える様が「天の川」と呼ばれています。このような現象からもこの銀河系が厚みのある円盤状の形であることがわかっています。
ちなみに天の川銀河の直径は約10万光年(端から端まで行くのに光の速さで10万年ほどかかる距離)という途方もない距離です。
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銀河の画像で見えている光の粒は太陽クラスの“恒星(こうせい:自ら光を放つ星)”であり、最初の画像のように地球や火星のような惑星(わくせい)に比べると段違いに大きいです。質量も太陽が地球の約130万倍であり、太陽系惑星全てを足しても太陽の質量からすると誤差範囲程度の大きさです。
このような太陽クラスの恒星が銀河系には約2000億個あると言われています(*5, *6)。

銀河系を構成する原子の数は?
もちろん、恒星の大きさは様々ですが「恒星の平均的なサイズや原子組成がほぼ太陽と同じと仮定」して「その周囲の惑星の質量は誤差範囲と仮定」して「銀河系を構成する原子の数」を概算してみます。(ブラックホールやダークマターはここでは考えないこととします。)

太陽の質量=2.0×10^33g(グラム)、
1g(グラム)の水素中の原子の数=6.02×10^23 個
銀河系の恒星の数=2000億個=2.0×10^11 個
銀河を構成する原子の数=2.0×10^33g(グラム)×6.02×10^23 個×2.0×10^11 個=2.4×10^68 個

ここでようやく無量大数:むりょうたいすう(10^68)という単位に到達しました。
「銀河に存在する恒星のほぼ太陽と同じと仮定」「恒星の周囲の惑星の質量は恒星と比べて誤差範囲と仮定」した上で非常に大雑把に計算すると、「銀河系を構成する原子の数を全て合わせると約2.4無量大数個(2.4×10^68 個)」と言えます。

ほとんどの人は「思いつく最も大きな数の単位は?」と聞かれると「無量大数」と答えるのではないかと思います。しかしそれが「砂漠の砂粒全て数えるほど」なのか「地球上の全ての雨粒/水滴の数ほど」なのかと想像していましたが、それを遥かに超える「この直径10万光年の天の川銀河中の星全てを原子レベルに分解して到達できるほどの膨大な数」ということがようやく分かりました。


さて、では「この宇宙に銀河はいくつある?」のでしょうか。
天の川銀河以外で最も有名な銀河は「アンドロメダ銀河(*7)」だと思いますが、下の画像のようにこの宇宙には我々の所属する「天の川銀河」以外にも数多くの銀河が存在しています。

Hubble-Space-Telescope-Galaxy-Collection.jpg

最近の研究では「この宇宙における銀河の数は約2兆個」とされています(*8, *9, *10)。
我々の銀河が1万個集まった集団を1万個集め、さらにそれを2万以上集めたものがこの宇宙全ての銀河の数に等しい、ということが言えます。

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非常に大雑把な概算で「天の川銀河に含まれる原子の数は約2.4無量大数個」というのを先ほど試算しました。
では「宇宙の銀河の平均サイズを天の川銀河と仮定」した上で「全銀河を含めた宇宙に含まれる原子の数」を非常に大雑把に計算してみます。
2.4無量大数個×2兆(銀河の数)=4,8000,0000,0000無量大数個(4.8×10^80 個)
さすがに今度は単位の方が追いつかなくなってきました。

「無量大数より大きな単位は?」
無量大数よりも大きな数の定義は実は古来から存在しています。
それは華厳経(けごんきょう):(正式名称『大方広仏華厳経』だいほうこうぶつけごんきょう、サンスクリット語でブッダーヴァタンサカ・ナーマ・マハーヴァイプリヤ・スートラ)という大乗仏教仏典の一つに数に関して記されています(*11、*12)。

その中で頻波羅(びんばら、*13)という単位が10^56 を表します。この時点では無量大数にはまだ及びませんが、次の単位が矜羯羅(こんがら、*14)という単位で10^112 を表します。急に無量大数を飛び越えてとんでもない桁になりましたが、昔から既にこの途方もない巨大な単位が定義されていました。

つまり、「全宇宙、すなわち太陽が2千億個集まった銀河を2兆個集めた宇宙全体の全ての原子を数えた数=約4,8000,0000,0000無量大数個(4.8×10^80 個)」をもってしても「1矜羯羅(こんがら:10^112)の1兆分の1のさらに1兆分の1にも及ばない」というほど巨大な単位が実は古代インドの経典から存在していたということになります。

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まとめ
・地球を全て原子にすると極:ごく(10^48)個のオーダー
(オーダーとは概ねその周辺の桁で表されるという意味)
・太陽は地球の約130万倍の質量
・太陽に含まれる水素原子の数は阿僧祇:あそうぎ(10^56)個のオーダー
・天の川銀河の大きさは直径約10万光年
・銀河系に含まれる恒星は約2000億個
・銀河系の星全ての原子の数を表すと無量大数:むりょうたいすう(10^68)のオーダー
・全宇宙にある銀河の数は約2兆個
・全宇宙の全ての星の原子を数えると10^80 個のオーダー
・全宇宙の原子の総量でも1矜羯羅(こんがら:10^112)には及ばない


今回は「数」というテーマで宇宙を見てみましたが如何だったでしょうか。「無量大数」がどのくらいの量なのか想像したことはあまりないと思いますが、「思っていた以上に膨大なスケール」とも言えますし、「思っていたほど無限の大きさでもなかった」と思う人もいるかもしれません。ただ「2000億個の恒星を持つ銀河系、その銀河を2兆個含む全宇宙」を想像したのは初めての人も多かったのではないでしょうか。そして、「現代の我々の観測できる宇宙を全て原子で数えても遥かに凌ぐ数の単位:矜羯羅(こんがら:10^112)が既に古代インドで伝えられていた」ということは驚愕の事実に値します。途方もない大きさの宇宙ですが、上のような手掛かりは全宇宙を瞑想することに役立つと思います。

引用:
*1. モルーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/モル
*2. 地球ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/地球
*3. 太陽ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/太陽
*4. 太陽質量ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/太陽質量
*5. 銀河系ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/銀河系
*6. 「星の数」の話ーJST 日本宇宙フォーラム
https://www.pr.jsforum.or.jp/blog_20200519/
*7. アンドロメダ銀河ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンドロメダ銀河
*8. Christopher J et al. THE EVOLUTION OF GALAXY NUMBER DENSITY AT Z < 8 AND ITS IMPLICATIONS The Astrophysical Journal, 830:83 (17pp), 2016
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/0004-637X/830/2/83/pdf
*9. A universe of 2 trillion galaxiesーPhys.org
https://phys.org/news/2017-01-universe-trillion-galaxies.html
*10. 宇宙に存在する銀河は2兆個、従来の見積もりの10倍ーAstroArts
https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/8745_galaxies
*11. 華厳経ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/華厳経
*12. 命数法ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/命数法
*13. 頻波羅(びんばら)ーWikpedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/頻波羅
*14. 矜羯羅(こんがら)ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/矜羯羅

画像引用
https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23157634&word=デジタル背景%E3%80%80マトリクス%E3%80%8004
https://www.freepik.com/free-photo/hydrogen-molecule_26317262.htm#query=molecules%20molecular&position=4&from_view=keyword
http://www.textures4photoshop.com/tex/water-and-liquid/isometric-water-cube-3d-cross-section-png-stock-photo.aspx
https://pixabay.com/illustrations/world-earth-globe-sphere-planet-1348808/
https://grapee.jp/52032
https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Artist%27s_impression_of_the_Milky_Way_(updated_-_annotated).jpg
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_galaxies
https://ras.ac.uk/media/1176
https://unsplash.com/ja/写真/qtRF_RxCAo0

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No.025 「量子」と「時間」と「世界」の謎解き

量子力学もこれまで回を重ねてきましたが、今回はさらに核心的なテーマになります。タイトルの通り量子はついに数千キロを超えるという空間的概念だけでなく“時間”というものの常識を覆してきました。

早速本題に移る前に今回用いられる実験回路のマッハ・ツェンダー干渉計(Mach-Zehnder Inferometer *1)について説明します。この装置は図1に示されるようなもので複雑なものではなく、ハーフミラー/ミラー/光源/検出器という簡単な回路で自作キットも販売されています。図1左を見ると分かりますが、光源から発射された光がハーフミラーに当たって半分ずつ2方向に分岐し、また合流していずれかの検出器に到達するしくみです。
20220829Fig01_convert_20230506170838.jpg
本来このマッハ・ツェンダー干渉計(MZI)は物質の成分分析等に開発されたものなのですが、「光が2方向に分岐して合流する」という仕組みを聞いてもうピンときた方もいると思いますが、二重スリット実験」と非常に構造が似ており量子力学実験でもよく用いられています

通常の光(レーザー光)をこの回路に照射するとどうなるかというと、図2Aのようになります。普通に設置すると光は最終的に半分ずつ2つの検出器に検出されます。しかし、ミラーの位置を微調整して2つのルートの光の位相差がずれるようにすると、図のように全く光が届かない場所や、逆に強め合う場所が出てきます。

20220829Fig02_convert_20230506170857.jpg

これを実際にレーザー光で実験した研究があり(*2)、それを図3に示します。この図のように検出器には干渉縞が現れます。これはレーザーが光であり波の性質を持つから2つのルートを通った波が干渉して縞模様ができることは容易に理解できます。
20220829Fig03_convert_20230506170911.jpg
この研究者も次に“光子(量子)を1個だけこの回路に照射したらどうなるか?”という疑問を持ちました。そして実際にレーザー光を弱めて光子1個ずつ照射した結果は図4のようになりました。
20220829Fig04_convert_20230506170925.jpg
図4上に示す通り、検出器はやはり干渉縞を記録しました。そして、その干渉縞の間隔は通常のレーザー光と光子1個ずつの照射の場合とで、ほぼ一致していました。

この実験結果が意味することは“光子が1個でも2つのコースに分岐して各々進み、合流地点でまた互いに干渉して縞模様を形成する”ということです。光は1個、2個と数えられる“粒子性”を持ちながら、干渉して増幅したり減衰する“波動性”も同時に保持しているということを表します。この辺は二重スリット実験の基本的な部分で過去に解説していますのでそちらを読んでみてください(*3)。

1個の光子が2つの異なる経路を同時に通過して互いに干渉する、という現象は二重スリット実験(*3)とこのマッハ・ツェンダー干渉計(MZI)で同じ現象と言えます。このMZI回路で「1個ずつ光子を照射し、回路には1個の光子しか存在しない」条件でミラーを微調整して2つの経路の光子で干渉を起こさせると、図5Aのように片方の検出器では全く光子を検出しなくなります。これは「1個の光子の片方が、自分自身の別の半分と合流するときに干渉して打ち消し合う」からです。

これを証明するために図5Bのように片方のルートを遮断すると、その途端に検出器1が光子を検出し始めます。これは合流地点に片方からの光子が到達できないことで干渉が起こらずに光子が検出器1に届くようになるからです。

20220829Fig05_convert_20230506170937.jpg

このような“1個の量子が空間的に2つに離れてもペアの関係”であることは“量子もつれ/エンタングルメント(*4)”と呼ばれ、理論的には数千キロ離れていても関係が成立することが知られています(*5)。

しかし、先ほどは「1個の光子が同時に2つのルートを通過する」ことが示されましたが、「2つのルートを分離したらどうなるか?」という実験結果を図6に示します。図6Aのようにルートの合流地点にハーフミラー(BS/ビームスプリッター)ではなく普通のミラーを挿入し、途中までのルートは変えずに合流地点を分離させたらどうなるでしょうか?。仮説としては「1個の光子が半分ずつになって各ルートを通り、両方の検出器で検出できるのでは?」という予想も成り立ちます。
20220829Fig06_convert_20230506170952.jpg
実際にはどうなったかというと、図6Aに既に書かれている通り、赤のルートを通過した場合はそちらの検出器のみ光子が検出され、青ルートの検出器には反応がありません。逆に青ルートを通過した場合は青ルートの検出器のみ検出され、赤ルートの検出器は無反応でした。つまり、「この場合1個の光子はどちらか片方のルートに100%か0%の値しかとらない」という結果になります(*6, *7)。残念ながら図6Bのように「1個の光子が分離した各々のルートに50%ずつ検出されるのでは?」という予想は見事に裏切られました。

この現象は「量子が通過するルートを特定しようとすると性質が変化する」という不思議な現象として知られています。それは「二重スリットのどちらを通過したか観測しようとすると性質が変わる(*3)」、「量子がスリットを通過した先が重ならなければ粒子、通過した先が重なる場合は波の性質になる(*8)」という現象と同じ量子力学的現象です。
どういうメカニズムか分からないが、量子は到達地点に合わせてその性質を変えている」ということが言えます。しかしこれは今だにどの科学者も明確な説明はできていません。

そこで、ここからが今回の本題ですが、量子力学の先駆者であるジョン=ホイーラー博士(1911-2008, *9)は次のような思考実験を提唱します;「量子が分岐点を通過した後で、その先の状態を変化させたらどうなるのだろうか?」。このMZI回路で説明すると「最初に光子がハーフミラーを通過したときに、①到達地点が合流する場合→光子は2つのルートに分かれて進む(図7A)、②到達地点が合流しない場合→光子は分離せずにどちらか片方のルートに進む(図7B)」という条件分岐が当てはまります。

このとき例えば「光子がハーフミラーを通過した後で、合流するはずだったルートを合流しないように切り替えた場合、2つのルートに分かれて進んでいた光子はどうなるのか?(図7C)」という「量子を騙せるか?量子との知恵比べ」といったテーマの実験です。
20220829Fig07_convert_20230506171022.jpg
当時は光子に先回りして構造を変化させる技術はありませんでしたが、2007年にフランスの研究施設からこれを実現した研究が発表されました(*10)。この回路図(図8)の中央部分の四角形がマッハ・ツェンダー回路になります。光子がハーフミラー(BS)を通過して分岐してから合流するまで約160ns(ナノ秒)かかり、合流部を連結させるかどうかのON/OFFの切り替えが120nsかかります。つまり光子がハーフミラーを通過した後で、合流部の状態を変更することが可能な回路です。
20220829Fig08_convert_20230506171040.jpg
この装置を使うと光子は到達地点に応じて「波として2つのルートを分岐して進む」か「粒子としてどちらか一方のルートに進む」か決定した後に「到達地点が変わってしまう」ということになります。気になる結果は図9のようになりました。

これを見ると回路が交わるとき(本来は光子が波の性質を示す)は図9Aのように“ほぼ正確に波の性質が再現された”(回路が交わってないときに入射された光子も含まれているのに)また逆に回路が交わらないとき(本来は光子が粒子の性質を示す)は図9Bのように“ほぼ正確に粒子の性質が再現された”(回路が交わっているときに入射された光子もふくまれているはずなのに)

結論としては、「光子が入射したときどのような状態であろうと、回路が交わって干渉可能な場合は“波動性”を示し、回路が交わらず干渉できない場合は“粒子性”を示した」と言えます。
20220829Fig09_convert_20230506171100.jpg

さて、また我々の想定を覆す実験結果が出てしまいました。
疑問:「光子はどの時点で波になるか粒子になるか決定されるのか?」
仮定1:「分岐点(ハーフミラー)より手前で決定」と仮定した場合、その時の到達地点に合わせて波か粒子か決定したとすると、その後に「変更された到達地点に合わせて」また途中で変わったことになります(2つに分かれた片方はどうなるのか?その逆は?瞬間移動?)。
仮定2:「分岐点を通過した後」だとすると通過時点で「2つのルートを進むか、どちらか1方へ進むか」いずれかに決定しなければならないのに、辻褄が合わない。
仮定3:「到着地点が変更されたとき、時間を遡って分岐点で性質を変える」。これはもうビックリ理論ですね。やはり革新的発想なので期待を込めて信じる人もいれば頑なに否定する人もいるようです。
仮説4:「この現象も含め宇宙そのものが虚像・ホログラフィである」。これも今までの全てを根底から覆す理論ですが、真剣に研究されており研究論文も出ています(*13, *14)。
これを読んだ皆さんはどう考えますか?結局どの仮説も現代物理の概念では説明することができません。もちろん、「上のどの仮説でもない」ということも十分にあり得ます。

昔の人々は「大地を中心に天空が回転している」と信じて疑いませんでしたが、実は「大地自体が回転し、太陽の周りを公転している」ことが分かりました。またかつて人々は皆「時間も空間も絶対である」と思い込んでいました。そこでアインシュタインは一般相対性理論(*11)を提唱し、実際は「時間も空間も歪んだり変形したりする」ものであることを証明しました。そして量子力学になると「1つの量子が同時に2つになり、たとえ数千キロ離れてもシンクロする」という不可解なことも疑う余地のない事実として証明されています。ここに来て量子力学はさらなる別の課題を我々に突きつけているのかもしれません。

我々は「時間」というものの概念についても既存のものを壊して新たな概念を創造しなければならないかもしれません。誰しも「何かが起こり、それによる影響はその後の世界、未来に現れる」「過去に原因があってその後に結果が生じる」と思っています。逆はあり得ません。「未来のことで過去が変わる」ということは我々の常識では考えられません。
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但し、「時間は過去から未来へ流れる」、「出来事は過去から順番に起こる」という当たり前と思えることも実は「我々がそう思い込んでいるだけ」なのかもしれません。先に挙げた例の様に「誰もが信じて疑わなかったこと」は何度も覆されてきています。「時間とは常に一定なのか?」「時間とは常に過去から未来へ一方通行なのか?」「時間とは一本道なのか?他の時空が存在するのか?」「そもそも“時間”というものが存在するのか?」「“時間がある”という我々の意識の中に存在しているだけなのか?」「実は我々は見ているのは虚像ではないのか?」「時間も空間も我々の意識の中の幻影ではないか?」など常識的に信じ難いこともありますが、実際にこのような理論が近年多々見られます。

これらは決して遠い国の幻想ではなく、常に我々が生活している世界で起こっている現象です。量子力学も常に我々が触れている物質の世界です。時間や意識も形而上学という非物質的世界の学問でしたが、「量子と意識のつながり(*12)」によってこれらも密接な関係を保つことが証明されています。ミクロの量子の世界や時間の世界、こういったものに考えを巡らせることは、瞑想と全く同じ効果があります。さまざまな瞑想法でも極めていくといずれは超自我/全体意識/宇宙/神秘性という領域へと昇華していきます。「自分が意識するもののみが存在する」という法則を使いこなすならこの世界を理解し「意識で現実を変える」こともできるかもしれませんね。

引用
*1. マッハ・ツェンダー干渉計
https://ja.wikipedia.org/wiki/マッハ・ツェンダー干渉計
*2. Dimitrova TL, Weis A. A double demonstration experiment for the dual nature of light. Proc. of SPIE Vol. 6604, 66040O, 2007, doi:10.1117/12.726898
https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a
*4. 量子もつれ−Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/量子もつれ
https://note.com/newlifemagazine/n/n349ffafbd715
*6. Dimitrova TL, Weis A. Lecture demonstrations of interference and quantum erasing with single photons. Physica Scripta T135: 014003, 2009
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0031-8949/2009/T135/014003
*7. 小芦 雅斗. 微かな光の不思議な世界. 東京大学 Todai OCW 学術俯瞰講義 2012
https://note.com/newlifemagazine/n/nf66f91110a61
*9. ジョン・ホイーラーhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ジョン・ホイーラー
*10. Jacques V, et al. Experimental Realization of Wheeler’s Delayed-Choice Gedanken Experiment. Science 315, 966-968 (2007); DOI: 10.1126/science.1136303
*11. 相対性理論ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/相対性理論
https://note.com/newlifemagazine/n/n19342d9a4f56
*13. ホログラフィック原理-Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ホログラフィック原理
*14. Afshordi N et al. From Planck Data to Planck Era: Observational Tests of Holographic Cosmology. Phys. Rev. Lett. 118, 041301.
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.118.041301

画像引用 
*a. Mach Zehnder Interferometer 
https://www.indiamart.com/proddetail/mach-zehnder-interferometer-9705574733.html
*https://rare-gallery.com/4582346-women-profile-face-artwork-fantasy-art-abstract-time-space-clocks-paint-splatter-digital-art.html

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No.024 量子の最新研究と因果律の崩壊?

前回は“量子”と“意識”が無関係とは言えない実証実験を紹介しました(*1)。最近量子力学への関心も高いので今回も取り上げますが、これまで分かっている量子の不思議な性質をおさらいすると、まず量子(光子や電子といった物質の最小単位)は“粒子の性質”と“波の性質”を両方保持している“二重性”という性質があります(図1)。

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・光子はこれ以上分解できない1個(量子)に分離できる。
・光子を1つのスリットに1個ずつ照射すると粒子として振る舞う(図1A)。
・光子を2つのスリットに照射すると、1個の光子が2つのスリットを同時に通過したかのように振る舞う(波動性:図1B)。
・さらに、“光子がどちらのスリットを通ったのか観測しようとする”と波動性は消失して粒子として振る舞う(図1C)。

このように、まず「光は粒子か?波か?」という論争に始まり、古典物理の概念を壊して「光は粒子でもあり波でもある」という二重性に関して議論は収束していきました(*2)。ただし、「1個の光子がどちらを通過したのか?」を観測しようとすると波の性質が消える、という奇妙な現象が起こります(*3, *4)。

これに関しては「機械的に観測すること」が量子の性質を変えるのか、それとも「観測しようとする人間の意識」が量子の性質を変えるのか、それともまた別の要因が影響しているのか、多くの議論を呼びました。これに対して近年、「人の意識が量子の性質に変化を与えるか」という実験が行われました(図2、*5)。

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この実験の概要は以下のとおりです。
・1500人以上参加して二重スリットの実験装置に意識を向けた(図2A)。
・人間の意識が向けられるとその時間に合わせて変化が現れた(図2B)。
・人間の意識で量子の波形グラフ全体に変化が現れた(図2C)。
・人ではなくコンピュータのモニタリングでは変化が出なかった(図2B/C)。
・参加者は数キロ〜数千キロ離れていても距離に関係なく変化は現れた。
と、このような結果が示され“光子の性質が変化を起こす”現象に対して“人間の意識”が距離を無視して影響を与えることが科学的にも立証されました。瞑想をテーマとするこの連載記事で量子力学を扱うのもこのように「“量子”や“意識”にはまだ未知の可能性がある」からです。

しかしまだ疑問は尽きません。量子が二重スリットを通過して“どの段階で性質が変化するのか”はまだ分かっていません。何故かというと“経路を観測すると性質が変化してしまう”からです。

図3の装置で見ると、一個の電子が射出され(粒子性)、二重スリットを通過して投影面に一つの点として捕捉されます(粒子性)。スリットからの透過線が重ならない場合(図3A)は1個の量子が片方のスリットを通過し投影像もそのまま干渉縞(しま)の無い均一なバンドが見られます。スリットからの透過線が投影面で重なる場合(図3B)は1個の量子が波のように二つのスリットを同時に通ったような干渉縞が現れます(波動性)。二つのスリットからの透過線がクロスして焦点が合わない場合(図3C)は粒子のように干渉縞が無く投影されます。


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ここである研究チームは「どの段階で量子が粒子のように振る舞ったり波のように振る舞ったり変わるのか?」という疑問を解明するために次のような研究を考案しました(図4)。まず最初の段階(図4A)では1個ずつ電子が射出されますが、各スリットからの透過線は重ならないので“粒子”としてスリットの形のまま投影像が現れます。ここでスリット裏の回折装置を用いて一切構造を変えずに透過線を重ね合わせます(図4B)。“粒子の性質”を示した電子を“そのまま重ねていったら”一体どのような投影像が現れるのでしょうか?また、重なった状態から“さらに透過線がお互いに通り過ぎていったら”どのような投影像が現れるのでしょうか?

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このような研究を実現したのが日本の理研の研究グループです。論文タイトルは「Electron interference experiment with optically zero propagation distance for V-shaped double slit(V字型二重スリットの伝搬距離が光学的にゼロの電子干渉実験)*6」で2021年とつい最近発表された研究です。二重スリット実験は1800年代から議論されていましたが今も現在進行形で研究されていて未だ全てが解明されていない領域です。この研究チームが実際に開発した装置が図5のようになります。

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用いた粒子は電子で、電子線バイプリズムという機構で構造を動かさずに電子の飛程を回折させることが可能です。図5右の(a),(b),(c)が図3のA, B, Cと同じような原理を示していて、このように投影像を任意に動かすことができます。そしてこの装置はこれまでのような平行な二重スリットではなく、“V字型二重スリット”を採用しています(図6左上)。
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このV字型二重スリットを使用することで、スリットの投影像が全体に重なっていくのではなく、部分的に重なりが生じます(図6下)。これによって、“まだ重なってない部分”/“ちょうど重なっている部分”/“通り過ぎて重なってない部分”の投影像を同時に観測することが可能になっています(但し、どちらのスリットを通ったかは観測してません)。

ちなみにスリットの間隔は1μm(図6左上)と極小ですが、電子の古典サイズ(電子は量子物理学的には大きさを定義できないので目安のため古典サイズと呼ぶ*7)は10-9μmのオーダーなので十分に離れています。例えると電子の大きさを直径1cmのパチンコ玉サイズと仮定すると、このスリット間の距離は約10,000km、およそ東京〜ロンドン間の距離に例えられます。これ程離れた距離を「1個の量子が同時に通過してくる」現象が起こるので、量子の性質とは当時の古典物理学者達にとってはいかに受け入れ難く奇想天外なものであったか想像に難くありません。

本題の研究結果は図7のようになりました。図7右にちょうどV字スリットの投影像が重なって“X”のようになっている状態の拡大図がありますが、この図を見て分かるように「重なった部分のみ干渉縞が浮かび上がり」「重なっていない部分は均一な粒子の分布」のようになっています。
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この図7cの見え方が実際にどのように電子が分布しているか精密にカウント数を解析したものが図8になります。スリットの重なった干渉縞が現れている部分(図8#1)のグラフを見るとやはりグラフでも“波の性質”として干渉による規則的な縞模様が出現していることが分かります。対照的に全く重なってない部分(図8#3, #4)は波の性質は見られず“粒子の性質”として均一に散布されたような分布になっているのがグラフ#3, #4でも示されています。

面白いのは“スリットが重なる部分と重ならない部分の境界の部分(図8#2)”のグラフです。グラフにおいても“重なる部分は波の性質”、“重ならない部分は粒子の性質”というように明瞭に分かれています。もちろん、ここに記録された電子の1個1個は「全て同じ条件で」発射されたものです。

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この実験の条件を改めてまとめると以下のようになります。
・電子は1個の粒子として1個ずつ全く同じ条件で射出されている。
・投影面でも電子は1個の粒子として着弾点が記録される。
・スリット投影面の間隔を調節した後は計測中は何も動かしていない。
・V字スリットで重なる部分/重ならない部分が同時に計測できる。


そして実験の結果をまとめると以下のような現象が観察されました。
・重ならない(片側のスリットからのみ到達できる)部分は粒子の性質を示した。
・重なる(両方のスリットから到達できる)部分は波の性質を示した。
・スリット手前の条件が常に同じでも投影部分によって性質が変化した。
・同じスリットの投影像でも重なるかどうかで明確に異なる性質を示した。
・投影像の重なる場所が移動すると干渉縞模様も正確に一致して移動した。


最終的に研究著者らは次のように結論づけています。
・発射された量子の投影部分(到達地点)に到達する経路が二つあって特定できない場合、量子は2箇所を同時に通過した波としての性質を示す。
・発射された量子の到達経路が1つしかないまたは1つに特定される場合、量子はその経路を通過した粒子としての性質を示す。
ただし、これ以上のことについては研究著者らも深くは言及していません。今回の理研チームの最新の研究結果でも分かるのはここまでで、現状ではこれ以上のことは言えないからです。


しかし、この結果から以下のような疑問が生じます。
・電子は到達地点が重なるかどうかを知り得るのか?
・出発地点では電子は到達地点を知らずに出発しているはずである。
・同じスリットでも到達地点が重なるかは場所によって違うはずである。
・到達地点から出発地点への情報のフィードバックは無いはずである。
・なのになぜ非常に正確に波と粒子の性質を使い分けるのか?
・全く同じ飛程で“重なる時”と“重ならない時”に出発した電子はどこから性質が変わるのか?


電子の因果律から見ると、
・到達地点まで制限されない2つの経路があるならば波として振る舞う。
・到達地点まで1つの経路しかないなら粒子として振る舞う(観測者が「どちらかを通るはず」という意識で制限された場合は1つの経路しかない粒子として振る舞う)。
という難解ですがシンプルな法則で首尾一貫しています。

ただし人間の常識から来る因果律で考えると、
・同じ条件だが量子の性質が到達点によって明らかに変化している(図8#2等)
・性質が「変化」するにはその「原因」が存在する。
・その「原因」は「到達地点が2つの投影像に重なるかどうか」である。
・2つの投影像は回折できるので「重なるかどうか」は到達するまで分からない。
・しかし変化するための分岐点は「手前のスリット通過時点以前」である。
・手前のスリット通過時点で既に「波/粒子」の選択は起こっていることになる。
・分岐条件(到達地点)の手前のスリットで既に選択が行われている?

というように、人間の因果律という考え方からすると現時点ではどうしても説明のつかない部分が生じてきます。かつて「時間と空間は絶対に揺るぎないもの」と思われていた常識をアインシュタインの相対性理論が覆したように、我々が持つ「因果の法則、事の順序」というものも絶対的なものではないかもしれません。

これまでも「時間と空間は絶対である(実際は絶対ではない)」「物質の状態は1つである(実際は同時に二つの状態を保持する場合もある)」「量子は1個が1つのスリットを通るはず(実際は1個が2つのスリットを同時に通ることも起こる)」「人の意識と物質は科学的に関係しない(実際は意識で物質が変化することも示された)」というように、我々の未熟な概念や常識が全て思い込みであり錯覚であることを科学が示してきました。しかしながら、まだ我々が考えている自然界の法則や因果律は古い概念が作り出した錯覚である可能性があります。今回の最先端の科学実験でも分かったことは「自然界の真の法則は我々の概念を遥かに超えた領域にある」ことを垣間見たに過ぎません。

我々は、我々が考えている常識をさらに打ち壊さなければならないかもしれません。「我々が普段見ている世界はどこまで虚像でどこまで現実なのか?」という点にも改めて意識を向ける必要がありそうです。「二重スリットを通過する量子に意識を向けるかどうかでその結果が変化する(*1)」ように、「我々の身の回りの世界に意識を向けるかどうかで起こる現象が変わる」かもしれません。多くの瞑想メソッドは“自己の内面”、“外界”、“宇宙意識”、“究極の真理”というように精神を高次元の領域へと昇華していきます。このような科学的な探究も突き詰めて考えることで“究極の真理に対する瞑想”と同じ効果が得られると思います。また次回は我々の概念を打ち壊す研究を紹介したいと思います。

引用
https://note.com/newlifemagazine/n/n19342d9a4f56
*2. 単一フォトンによるヤングの干渉実験(浜松ホトニクス/1982年)
https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c
*3. 二重スリット実験
https://www.youtube.com/watch?v=vnJre6NzlOQ
*4. 谷村省吾:干渉と識別の相補性--不確定性関係との関わりを巡る論争小史. 数理科学(サイエンス社)2009 年 2 月号 (Vol.47-2, No.548) pp.14-21
*5. Radin, D. Michel, L., Delorme, A. (2016). Psychophysical modulation of fringe visibility in a distant double-slit optical system. Physics Essays. 29 (1), 14-22. https://doi.org/10.4006/0836-1398-29.1.014
*6. Harada K, et al. Electron interference experiment with optically zero propagation distance for V-shaped double slit. Applied Physics Express 14, 022006 (2021), https://doi.org/10.35848/1882-0786/abd91e
*7. 電子 -Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/電子

画像引用 
*いらすとや https://www.irasutoya.com

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No.023 「意識」が物質を変えることを証明:二重スリット世界規模実験

前回は世界中の物理学者たちに大きな衝撃を与え、現在でもその議論が終結していない「二重スリット問題」について取り上げました(*1)。

前回の記事で扱った内容をおさらいすると、図1のように光や電子は「他は同じ条件なのに観測するかしないかで“波”になったり”粒子”になったりする」という現象が以前から示されています(*2,*3,*4)。様々な解釈がありますが、最新の研究では「微粒子は波動関数による確率的位置座標を有している(分かりやすく言うと、1個の粒子がどちらのスリットを通ったかではなく、1つの粒子の70%が右側を30%が左側を同時に通過したという確率的な状態が成り立つ)」ことが示されました(*5)。これによって「波なのか粒子なのか?」という論争には「同時に波でもあり粒子でもある」という一つの答えに収束しつつあります。

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この事実により我々は図2の上の様に、今まで常識だと思っていた“古典物理学”の考え方が“量子物理学”においては根底から覆されるという現実をつきつけられました。その現象については解明が進み今では一般人でも「波と粒子の二重性」に異を唱える人はいないと思われます。しかし、微粒子の性質が変化するのは「我々が観測するかしないか」つまりは「我々の意識によって変化するのか?」という点では未だ議論の余地があります。

物理学の世界でも「意識という実体のないもので物質が変化するはずがない(図2左下)」派と「もしかしたら我々の意識が物質に変化を引き起こしている可能性がある(図2右下)」派に分かれています。ただ、旧来の考え方や社会通念的には、「原子一個であろうと人の意思によって動かせたならば大事件になる」かもしれません。場合によっては“超能力や魔法”といった常識離れした話も無視できない話になってきます。

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このような疑問を研究した論文を今回紹介します。研究タイトルは「Psychophysical modulation of fringe visibility in a distant double-slit optical system.(遠隔二重スリットシステムにおけるフリンジ可視性への精神物理学的な変化)*6」というもので2016年に米国の物理研究者により発表されたものです。

実験の骨子を要約すると「光の波の性質が、世界中の遠隔参加者からの意識集中によってリアルタイムで変化するかどうかを検証した」というものです。

方法1:まず「どのように光の性質の変化を測定するか」について説明すると、図3左のように実験本体の二重スリットシステムがあり、常に光が照射されていて通常は“波の干渉縞模様”がスクリーンに投影されています。通常は“波の性質”によってスクリーンに縞模様が映し出されますが、もし何らかの影響によって“波から粒子へ”と変化が起こった場合、「縞模様に変化が現れる」はずです。図の様に“フリンジ”と呼ばれる縞模様の波形を測定することでその変化を“数値化”したり“統計学的に比較”することが可能になります。


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方法2:次に「どのように光に“意識”の影響を与えるか」についてですが、概要を図4に示します。今回の実験は遠隔地からインターネットシステム経由で、装置と参加者がリンクされました。最初に参加応募した参加者は正式な手続きを経て事前登録されます(不真面目な参加者やネット上の自動プログラム/ボットは除外されました)。“二重スリットの干渉縞の映像”は研究用のサーバーに送られます。実験参加者は任意の時間に自分のパソコンからログインし、実験セッションが開始されると二重スリットの干渉縞の映像が現れます。セッション中の“集中”フェイズでは“二重スリット装置に意識を集中”し、30秒間継続します。次に“リラックス”フェイズでは“二重スリット装置を意識しないようにする”状態で30-35秒間継続します。セッションはこれを交互に11分間繰り返し、最後に終了の合図を送信して参加者が最後までセッションを完了したことを確認して1セッション完了となります。

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方法3:実験の規模については図5のように世界中77カ国から約1500人の参加者によって実験が行われました。年齢も平均43歳(12〜89歳)、男女比=1:1、参加者も数キロしか離れてない人から18000km離れた人まで幅広く集められました。

セッションも8000以上記録され、この間の全ての“集中”フェイズと“リラックス”フェイズのデータが解析されました。但し、セッションは1人が参加している間は他の人や自動プログラムは参加できない様になっているため、“1回のセッションでは常に1人または1プログラムの影響のみ”という環境が終始維持されました。このため、8000以上のセッションデータを集積するのに2013年〜2014年の2年間が費やされました

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方法4:二重スリットの信号変化の算出/比較方法(補足)
今回の実験で計測/比較された信号変化とはフリンジの波形変化を測定したものですが、具体的にどのように計算式が導かれたか詳細については図6補足に一部記載していますので、こちらを参照してください(数式が得意でない人は読み飛ばしても全く問題ありません)。「9秒のタイムラグ補正」というものが出てきますが、この現象と補正の根拠については次のグラフで説明しています。

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結果1:二重スリット信号の変化(図7)
セッション中の“リラックス”→“集中”フェイズの切り替わりにおける“フリンジ信号変化の統計量”が図7グラフの様になりました。コントロール(自動プログラム)では数値の変動がほとんど無いのに対し、参加者(人:黒丸)の方は切り替わりの前後で数値が一定の傾向で大きく動いていることが分かります。まずは、“リラックス”フェイズから“集中”フェイズに切り替わる際に、“人が意識を向けた場合は二重スリットの干渉縞が明らかに変化している”ということが示されています。一方で、“自動化プログラムに二重スリットをモニタさせても変化は見られない”ということも示されています。

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結果2:補正後の各フリンジの変化量(人 vs. CPU)
先程の様に“集中”フェイズのデータでも最初の9秒間はタイムラグによる“不完全なデータ”であるためそれらを除外して解析した結果が図8となりました。グラフを見ても明らかですが、人が意識を向けた時(●)と同じ手順を自動プログラムが行なった時(◯)ではっきりと差が現れました。人のセッションでは図3に示された20のフリンジのうち、多重検定でも17のフリンジで明らかな統計量の変化が見られています(図8、p<0.05)。反対にコントロール(CPU)の方では20のフリンジいずれにおいても有意な変化は見られませんでした
このグラフの結果は、“プログラムが観測するのではなく人が意識的に観測することで光子の性質が変化した”ということを証明しています。
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結果3:検証解析
これらの有意差の出た実験結果に対して、「外れ値のカットオフが極端だったのではないか?」「ごく一部の極端な値が全体に影響を与えたのではないか?」「装置の経年劣化や経時的な環境変化が差を生み出しているのではないか?」「セッション途中でやめる参加者が多かったのではないか?」というような実験バイアスの可能性に関しても著者らはグラフを示して「不自然な実験バイアスは無かった」ということを示しています(グラフ省略)。


まとめ
二重スリット実験の問題点として、「光子が“粒子”と“波”の二重性を持つ」ことに関しては共通認識となっていますが、「その性質を変えるのに“人が意識を向ける”ことが影響を及ぼすのか?」という「観測問題」は完全に解決しておらず、科学者たちの間でも様々な論争が起こりました。その疑問に対してこの実験は「人がその対象に能動的に意識を向けることで光子に変化が起こった(コンピュータの自動プログラムによるモニタリングでは変化が起こらなかった)」という一つの答えを示したと思われます。

そして、この結果は「インターネットという通信環境でも」「年齢・性別・人種や国籍を超えて」「距離が1万キロ以上離れていても」成立することが1500人以上の大規模実験で立証されました。この結果から「人の意識が影響を及ぼすのに物理的な距離は関係ない」と言えそうです。これは過去の記事「“遠隔ヒーリング”は科学的に証明できるか?*7」を支持する結果であると言えます。
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またこの結果は“人間の意識”という現状では抽象的/非科学的/形而上学的なものが、光子という自然科学的/物質的なものに直接影響を与える(変化を引き起こす)ということを示した革新的な研究でもあります。もしかしたら「何かを念じる」「強く集中する」「何かに祈る」「意識を向ける」ということはただの「神頼み」や「運頼み」ではなく、「その対象物に何らかの現実的な変化をもたらす」効果があるのかもしれません。また「祈りや願ったこと」が現実となった時、それはただの「幸運や偶然」ではなく、「知らずに自分の意識がもたらした変化」という可能性も考えられますね。

最後にこの研究著者らは考察の部分で「このような実験には安定した注意を維持する能力を持つ人の参加が勧められる。一般に経験豊富な瞑想熟練者は、トレーニングを受けていない一般人に比べると高いパフォーマンスを示した。実験を始める際にはこの様な領域に才能を持つ参加者を見つけることを勧める。」と締めくくっています。これは研究著者の経験からのコメントと思われますが、やはり瞑想熟練者は集中力や意識が影響を与える力が強いことを示唆しています。瞑想は「幸せホルモン放出」「体内環境の変化」だけではなく「外界の物質変化」の能力も鍛えられるのかもしれませんね。

引用
https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a
*2. 谷村省吾:干渉と識別の相補性--不確定性関係との関わりを巡る論争小史. 数理科学(サイエンス社)2009 年 2 月号 (Vol.47-2, No.548) pp.14-21
*3. 二重スリット実験:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/二重スリット実験
*4. 単一フォトンによるヤングの干渉実験(浜松ホトニクス/1982年)(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c
*5. Lemmel H, et al. Quantifying the presence of a neutron in the paths of an interferometer. PHYSICAL REVIEW RESEARCH 4, 023075 (2022), DOI: 10.1103/PhysRevResearch.4.023075
*6. Radin, D. Michel, L., Delorme, A. (2016). Psychophysical modulation of fringe visibility in a distant double-slit optical system. Physics Essays. 29 (1), 14-22. https://doi.org/10.4006/0836-1398-29.1.014
https://note.com/newlifemagazine/n/n349ffafbd715

画像引用 
*いらすとや https://www.irasutoya.com
*freepik.com https://www.freepik.com/vectors/internet-connection
*https://wiki.anton-paar.com/jp-jp/double-slit-experiment/
*https://jp.depositphotos.com/10720552/stock-photo-mind-light.html

※引用文献の内容に関する著作権は該当論文の著者または発行者に帰属します。
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※著者は執筆内容において利益相反関係にある企業等はありません。

No.022 「観る」ことで「現実が変わる」?:二重スリット実験

 今回も前回の「遠隔ヒーリングの実現性(*1)」に続いて“量子物理学”の話題です。我々が“常識”として理解しているのが古典物理学(ニュートン力学)です。物には重さがあり、形があり、運動したり静止したりしています。例えば、「ある1個のリンゴがあれば、誰がどこから見ても等しく同じ形で同じ大きさの1個のリンゴである」ということは「当たり前」ですし、誰も異論を唱える人はいないと思います。しかしながら、量子物理学の世界では「ある1個のリンゴが2個や3個に分裂したり、見る人によって形のないジュースになったり、また元の1個のリンゴに戻ったりする」という奇妙な現象が起こります。これを示したのがいわゆる二重スリット実験(*2, *3, *4, *5)”と呼ばれるものです。これを基本的な部分から最新知見まで解説します。

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実験編

や電子は「粒子」か「波」か?
二重スリット実験とは「二本のスリット(すき間)からをスクリーンに投影するとどう映るか?」という実験です。もし「波」の性質を持つのであれば図1Aの水面上の2点に波を発生させた場合の様に互いに干渉し合い、図1Bのようにスクリーンに「縞模様」が映るはずです。一方でが「直進する粒子」であるならば、図1C/DのコンピュータCGのようにスクリーンにはスリットと同じ様な形状の「二本の線」が映し出されるはずです。

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結果はどうなったかというと、図2Cのように「縞模様」が映し出されました。これは「」に限らず「電子」という微粒子を用いた実験でも同じ様な現象が確認されています(*2)。や電子が単純に「直進する粒子」ならばスリット投影部分よりも外側に広がる縞模様を説明することが難しくなります。これによって「少なくともや電子は波の様な性質を持つ」ということでこの現象は説明することができます。

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・光や電子は純粋な「波」なのか?
もしもこれらが純粋な「波(振動・エネルギー)」であるならば、その大きさは「ゼロ」から「無限大」まで連続的な値を示すはずです。一方でもしこれらが「粒子」としての性質を持つならば、「最小単位の1個の粒子」としての固有のエネルギー値を持つはずです。

この性質を求めたのが図3の実験です。音波のように純粋な振動のエネルギーであれば、小さくしていっても「限りなくゼロに近づいていく」性質を持ちます(図3左)。これを光のエネルギーで計測し、フィルターを重ねて最小に近づけていくと図3右下のようにどんなに光の量を下げても「これ以上は下がらない最小のエネルギー量」が出てきます。これは光の最小単位の粒子として「光子(光量子: photon)」が存在することを示しています。これは光を純粋な「エネルギーの波」と定義するとどうしても説明のつかない現象になります。

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・光や電子は「粒子」?それとも「波」?
これまでの実験結果を見ての通り、光は普通に二重スリットに投影すると「波」のような性質を示し、極小単位まで求めようとすると「粒子」としての性質を示します。古典物理の考え方だと「どっちが真実なのか?」という話になります。あるいは「水分子も膨大な量によって液体の水や波を形成するように、光子も数が集まると波の性質を示すのでは?」など古典物理的な推論も成立しそうです。そこで次のような疑問が生じます。


・光や電子を1個ずつ二重スリットに投影したらどうなる?
先程のように「もしかしたらライトの光は膨大な数の光子が相互作用することによってマクロな波の性質を示すのかもしれない」という仮説を検証するには「じゃあ光子(電子)を1個ずつ二重スリットに当てたらどうなるのか」という考えに至ります。図3右のように光は光量子1個の単位まで分離することが可能です。この状態でスリットを通し、その背面には「1個の光子でも検出可能な検出器」を設置します。恐らく研究者の中には図1Dのように「スリットと同じ形状の二本線」が出現するのを予想した人も多いと思います。しかし結果は図4のようになりました

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・「粒子」なのに干渉の「縞模様」が出現?
何と、1個ずつ光子を照射したのに通常のライトで二重スリットを投影した時と同じような「縞模様」が出現したのです。
この現象を整理すると、
光子は1個ずつ照射された(同時に軌道上に2個存在することはない)」、
1個の光子に対して検出器にも1個の光子が検出された」、
つまり「出発点も1個の粒子」で「終着点も1個の粒子」であることが確認されています。

それなのに、2つのスリットから発生した波が干渉し合うような「縞模様」が出現したということです。
 この結果から分かることは光子はたとえ1個でも「粒子の性質」も「波の性質」も備えている、という可能性が示されます。(「粒子と波の性質を同時に持つ」という古典物理の概念では捉えられない状態になっています。)


・光子は左右どちらのスリットを通ったのか?
光子を1個ずつ二重スリットに照射したら縞模様が現れました(図5A')。古典物理の考え方にこだわると、光子は常に1個ずつ照射されたのだから、「右側スリットだけ光子が通過した投影と左側スリットだけ光子が通過した投影を合成したら二重スリットの投影像になるはず」です(図5B/B'予想)。ところが実際に片方を塞いで「片側のスリットだけに光子を当てた」ところ図5C/C'のように「縞模様は消失し太い帯状の分布」が見られました。

古典物理的に考えると「光子は1個ずつ必ずどちらかのスリットを通ってスクリーンに投影され、縞模様を作った」はずなのに「どちらか一方しか通れないようにしたら縞模様は消失した」のです。これからすると「干渉縞が形成されるには通過してないはずのもう一方のスリットも必要なのか?」という奇妙な疑問が生じてきます。
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・二重スリットで光子がどちらを通過したか観測すると?
前の実験より「何れかのスリットを塞ぐと縞模様は消失する」という結果から、「スリットを塞がずに光子がどちらを通ったか観測するとどうなるか?」という実験が行われました。その結果図6のようになりました。これまでの実験では図6(c)のように干渉による縞模様が見られたのに対して、二重スリットのまま「スリットを通過する電子を観測した」ところ、図6(d)のように「縞模様が消失した」のです。また更なる不可思議な現象が起こりました。ただ同じ工程を観測しただけ」で「現実の結果が変化した」のです。


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解釈編
・まずは「光は粒子なのか波なのか?」という点について解説していきます。
読者の皆さんも既に思考が柔軟かと思いますが、「光子は粒子でもあり、波でもある」という答えを聞いても異論を唱える人はいないと思います。言い換えると「量子の世界では1個の固形のリンゴは、形を持たないジュースの状態になったり、また1個のリンゴに戻ったり、同時に二つの状態であったりする」という、もう古典物理では説明できない状態を保持しています

・次に「縞模様が出た時、光子はどのようにスリットを通過したか?」。
今のところ有力な説としては「1個の光子が一定の確率で右側と左側両方のスリットを通過した」と言えます。別の言葉では「スリットを通過するときの光子は、1つの座標に存在する1つの点ではなく、波の様な広がりを持ち確率分布で表される空間的な広がりを持っていた」、つまり「ある1個の光子は60%右側を通過し、40%左側を通過してきた」という現象も起こり得ます。そのため「1個の光子がスリットを通過する際に、空間的な広がりを持ち別なスリットから同時に出てきた自己の一部と干渉して、縞模様を形成した」と説明できます。このように「1個の光子がどちらを通ったか?」という古典物理学的視点では永久に解決しない現象と考えられます。


・では「スリットを通過する光子を観測したらなぜ縞模様が消失したのか?」。
これはシュレーディンガーの猫の喩えの様に、「物質は観測されるまでは複数の状態を一定の確率で保持している」が、「観測されることで一つの状態に収束する」と言えます。「スリットを通過する際の光子は観測される前までは波として通過していた」が、「観測によって光子は“粒子”の状態になった」。その結果、「1個の光子が1つのスリットを通過したのと同じ現象」になり、「波の性質は失われた結果、縞模様も消失した」という説明が大雑把ですが今のところ有力と考えられています。


但し、この「観測」という言葉の定義が非常に曖昧です。計測器を設置した時点なのか、計器のスイッチをONにした時点なのか、モニタを人が知覚した時点なのか、人が「観測しよう」と意図した時点なのか、「どの時点で光子が粒子に収束するのか」は正確なところは未解決と言えます。ただ少なくとも図6のように「光子がスリットを通る瞬間を観測したら生じた現象が変化した」というのは紛れもない事実です。


詳しい解説はここでは避けますが、量子力学においてある粒子の空間的広がりなどを波動関数等を用い観測により波動関数が収束するという解釈は「コペンハーゲン解釈(*7)や標準解釈」と呼ばれているようです。一方で波動関数の収束は起こらず異なる世界として分岐していくという「多世界解釈(*8)」、また、人間の意識が量子に影響を及ぼすという意識解釈(*9)」、また「量子デコヒーレンス(*10)」という概念、その他いくつかの解釈が存在するので興味のある人は調べてみてください。


最新編
この二重スリット問題に対して、オーストリア・フランス・日本の広島大など共同研究チームによる最新の知見が2022年4月に発表されました(*11)。これには中性子が用いられていますが、「従来の観測という行為から生ずるあらゆるバイアスを最小にする」方法を実現するために図7のような非常に大掛かりな装置を使用しています。やはりこの検証の結果としては、「単純に1個の粒子が1つのスリットを通っているわけではなく、1個の粒子が一定の比率で2つのスリットを同時に通過している」と言えそうです(詳細は原著を参照してください*11, *12)。もちろんまだ未解明な部分もありますが、一つの解釈が裏付けられました。

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まとめ
ここで重要なポイントは、「我々がそれを観測しようとする」と「粒子はそれまでの不確定な状態から確定的な状態へと変化を起こす」ことが明らかになりました。逆に言うと「我々が粒子に対して観測しようとした時のあらゆる干渉を排除するためには図7ほど大掛かりな装置が必要になる」と言えます。

おそらく、「我々の周辺に普遍的に存在するあらゆる粒子」も「我々が意識せずにいる間は“あらゆる可能性を内包した不確定な状態”として存在している」、しかし「我々がそれらに意識を向けたときに、それらの粒子は不確定な状態から一つの確定的な状態へと形を変える」ということが、“光子でも電子でも中性子でも成り立つ現象”と言えます。
そして上に挙げた素粒子のみならず炭素原子60個でできたサッカーボールのようなフラーレンという大きな分子でも“二重スリット現象”は観測されています(*13, *14)。これは単体の素粒子のみならず「大きな構造を持つ分子の状態でも、その構造を保ったまま量子力学的な状態変化を起こす」ことが示唆されます。

この「瞑想」をテーマとした記事で「二重スリット問題」を扱った理由は量子力学意識の関係」にあります。意識すること」と「現実世界の変化」との関連性は古典物理学的には「関係ない、起こり得ない」と思われてきたかもしれません。ただし、今回のように量子力学ではそれは“十分に起こり得る”と考えられます。前回の記事でも「“細胞の写真”に量子エネルギーを送っただけで数千キロ離れた培養細胞が活性化する(*15, *1)」という古典物理で説明できない現象が量子テクノロジーで実証されたように、量子力学に我々の一般常識は通用しません

このようなことから我々が普段意識を向けていない部分に意識を向けることで現実に変化を起こすことが可能なのかもしれません。“科学”と“人の意識”はなかなか結びつきにくい領域ですが、量子力学”ではこれらの相互作用も認めざるを得ないことが分かりつつあります。「内観によって外界が変化するか?」というのは瞑想の一つのテーマですが、瞑想による“まだ未解明の現実化のメカニズム”においては“量子力学”が何らかの鍵を握っているしれません。


引用
https://note.com/newlifemagazine/n/n349ffafbd715
*2. Jönsson C (1974). Electron diffraction at multiple slits. American Journal of Physics, 4:4-11.
*3. 二重スリット実験:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/二重スリット実験
*4. 二重スリット実験(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=vnJre6NzlOQ
*5. 単一フォトンによるヤングの干渉実験(浜松ホトニクス/1982年)(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c
*6. 谷村省吾:干渉と識別の相補性--不確定性関係との関わりを巡る論争小史. 数理科学(サイエンス社)2009 年 2 月号 (Vol.47-2, No.548) pp.14-21
*7. コペンハーゲン解釈:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/コペンハーゲン解釈
*8. 多世界解釈:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/多世界解釈
*9. 量子力学の観測問題について
https://tmcosmos.org/taka/think/kansoku.html
*10. 量子でコヒーレンス:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/量子デコヒーレンス
*11. Lemmel H, et al. Quantifying the presence of a neutron in the paths of an interferometer. PHYSICAL REVIEW RESEARCH 4, 023075 (2022), DOI: 10.1103/PhysRevResearch.4.023075
*12. "二重スリット実験では1つの粒子が2つの経路に分割されている、広島大が確認"
https://news.biglobe.ne.jp/it/0506/mnn_220506_4874634060.html
*13. Arndt, Markus, et al. "Wave-Particle Duality of C60 molecules." Nature, v. 401, 1999, pp. 680-682.
*14. フラーレン:Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/フラーレン
*15. Peter C Dartsch, Effect of 90.10. Quantum Entanglement on Regeneration of Cultured Connective Tissue Fibroblasts. Biomedical Journal of Scientific & Technical Research. September, 2021, Volume 38, 5, pp 30841-30844. DOI: 10.26717/BJSTR.2021.38.006227
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